遺言書の相続人が先に死亡した時はどうなる?対処法や代襲相続を解説
せっかく遺言書をしたためても、指定した相続人が先に亡くなってしまうことがあります。
そうした場合の遺言書はどうなるのでしょうか?
また生前に予測される不慮の事態に備えるための遺言書の作成は可能でしょうか?
この記事では起こり得る様々な状況にどう遺言書で対処できるのかを説明していきます。
相続人が死亡している場合は遺言書は無効になる
遺言書では、死亡した相続人を対象に書かれた部分は無効になります。
しかしその遺言書全体が無効になるわけではありません。
遺言で遺贈される予定だった人が亡くなった場合も、その部分だけ無効になります。
つまり複数人に遺贈される旨の遺言であった場合は、死亡した受遺者が受け取るはずだった部分だけ無効になり、それ以外は有効のままです。
原則として無効になった部分の財産は法定相続に戻ります。
無効になった部分の分け方は、法定相続に戻るため、亡くなった相続人の親族へは代襲相続はされません。(代襲相続については後述します)
また遺贈の場合も、亡くなった受遺者の相続人、たとえばその子どもであっても相続することはありません。
(受遺者の死亡による遺贈の失効)民法第994条
(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)第995条
無効になると遺産分割協議が必要
無効になった遺産は法定相続分に戻り相続人の共有財産となりますから、別途相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。
しかし本来、遺言書は遺産分割協議をしないで円滑に遺産が分割されるよう意図して作成されるはずです。
それでいろんな事態に対処するため、また相続人が先に死亡するかもしれないことも含め、あらかじめ遺言書によって対処できる手段は取っておく必要があるでしょう。
次にその対処法について説明します。
遺言書の相続人が先に死亡した際の対処法
相続人が先に死亡してしまった時やまたそれを予知できる状況で遺言書による対処法を説明します。
1.予備的遺言を用意する 2.第二希望の遺言内容用意しておく 3.遺言書を書き換える |
1.予備的遺言を用意する
人生は何が起きるか分かりません。人の死のタイミングもそうですね。
高齢の父が先に他界するとは限らず、悲しいことに不慮の事故や病気などで、子どもが先に死亡することもあり得ます。
前述しましたが、法定相続での遺産分割ではなく遺言書による分割の場合は、亡くなった相続人の相続人に遺産がいくことがありません。
その場合の対処として以下の文面を記しておけます。
第1条 遺言者は、遺言者が所有する下記不動産をC(昭和××年×月×日生まれ)に相続させる。 第2条 万が一、遺言者より前に又は遺言者と同時にCが死亡していた場合、遺言者は前条記載の不動産をD(平成△△年△月△日生まれ)に相続させる。 |
それで同じ遺言書の中に予備的な内容を記述しておくことで、遺産分割協議をする必要がなくなり、遺言書の効力も失われることはないでしょう。
つまり予備的遺言とは、万が一に備え、指定した相続人や受遺者の次に財産を継承する人を指定しておくことをいいます。
以上のような記述がないと、遺言で指定した死亡した相続人への遺産分割や遺贈の部分は無効となり、なかったものとして扱われてしまいます。
2.第二希望の遺言内容を用意しておく
予備的遺言のさらに予備的な遺言をしておくことも可能です。
一度作成してしまった遺言書そのものを書き換えられないので(軽微な修正・訂正は可能)、後々で生じると考えられる、あらゆる可能性を考慮して、できる限りの備えをしておけます。
将来をすべて予知できないにしても、遺言が執行される時に起こりそうな問題を考え抜いて対処しておくと、残される人への思いやりになることでしょう。
また次で詳しく説明する遺言書の書き換えですが、遺言は新たな遺言書で何度でも書き換えは可能ですが、高齢に達していると度々できないものです。
それで第一希望の遺言が複数の項目で無効になり得ると予測されたら、それらに備えて第二希望の遺言で補われるように用意しておけるかもしれません。
遺言書は複雑なものになってしまいますが、のちのち無効になってしまうよりいいと考えられます。
3.遺言書を書き換える
遺言書を作成しても、その後の状況の変化に対処できるよう法律で規定されています。
遺言書はいつでも何度でも変更・撤回または新しく作りなおしたりできます。
民法1022条(遺言の撤回)
「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」
まさに遺産を相続させようとしていた人が先に死亡する場合は、その必要が生じてくるでしょう。
しかし一度作成した遺言書を変更したり撤回する際は、法律の規定に沿った方法が必要となってきますから注意しましょう。
遺言書の作り直しや撤回について下記の点を説明していきます。
1.遺言の一部分だけ撤回する場合 2.公正証書遺言の撤回 3.遺言書の撤回の撤回はできない。 4.遺言書の変更は認知能力が十分なうちに行う 5.遺言書の方式を変える |
1.遺言の一部分だけ撤回する場合
一度作成した遺言書は、軽微な訂正や変更を除いて、内容そのものを書き換えることはできません。
別に新たな遺言書を作りどの部分を撤回したかを特定し、改めた内容を明確に記述することが求められます。
遺言は遺言で撤回しなければなりません。
そうすると遺言書が2通に分かれてしまいます。
しかしその場合、遺言者が故人になった時に撤回前の1通しか発見されないでトラブルを招いてしまう事態になりかねません。
それで遺言書を全文撤回し、新たな遺言書に書き換える方がリスクが少ないといえます。
自筆証書遺言の場合は、全部撤回した時には、新たな遺言書のみ残し撤回前の遺言書は破棄するようにしましょう。
ただし、自筆証書遺言は不備な箇所があると無効になりますので、法律の規定に沿って注意して行う必要があります。
できれば行政書士などの専門家の助けを借りる方がいいでしょう。
行政書士は弁護士に比べ安価で、街の気軽に相談できる法律家として身近な存在といえます。
2.公正証書遺言の撤回
公正証書遺言は公正役場に原本が保管されていますから、手元にある謄本を手書きで書き換えたり、破棄したとしても効力は発生しません。
公証証書遺言においても、法律に沿った仕方で変更・撤回しなければなりません。
公正証書遺言の撤回や変更は、原則として新たに遺言を作成する必要があります。
「平成×年×月×日法務局所属公証人××作成同年第×号遺言公正証書の財産○○を●●に相続させる部分を撤回し、同財産を△△(生年月日)に相続させると改める。 その余の部分は、全て上記遺言公正証書記載の通りである」などと記載します。 |
一部撤回の場合も新しい遺言書を作成し、どの部分が撤回されたか明白にしておきます。
ちなみに遺言書が複数残された場合に、内容が矛盾する部分は日付が後に書かれたものが有効となります。(第1023条1項)
3.遺言書の撤回の撤回はできない。
もし一度撤回した遺言を再び有効にしたいという場合は、再び以前の内容と同じ遺言を作り直す必要があります。
なぜなら撤回前の遺言書とそれを撤回する遺言書に、さらにまたそれを撤回する遺言書があると、法律関係が複雑になるだけでなく、遺言内容も不明確になりやすいからです。
4.遺言書の変更は認知能力が十分なうちに行う
遺言書を作成してから年月が経ち、その間に相続人が先に死亡するなど状況が変わり、遺言書を変更したいと思う時に、認知症になってしまい新たな遺言書が作成できないことがあります。
それで状況の変化に遭遇したり予測できる場合は、将来に備えすみやかに遺言書の書き換えを行っておくようにしましょう。
また認知症になって書き換えができない場合に対処するため、前述した予備的な内容をあらかじめ遺言に含めておくことをおすすめします。
5.遺言書の方式を変える
自筆証書遺言を公正証書遺言の方式に変えることで変更が可能です。
またその逆に、公証遺言証書を自筆遺言証書に書き換えることもできます。
ただし自筆遺言証書に変更する場合は、故人になった時に発見されない可能性もあったり、紛失・改ざん・隠蔽(いんぺい)のリスクや不備による無効の可能性もあります。
なお、自筆遺言証書にも、遺言者の住所地を管轄する法務局で原本を保管してくれる制度があり、紛失・改ざん・隠蔽の心配がなく、法律の様式に沿っているかチェックしてくれるサービスが付いています。
また死亡後の検認手続きも不要ですので、自筆証書遺言を残すのも確実でスムーズになっています。
しかしながら、遺言書の変更(撤回・修正)は、さまざまなルールがあり複雑です。
法的に有効な遺言書でなければ意味がありませんので、経験豊富な「相続専門のプロ」に相談することをおすすめします。
遺言書の内容は代襲相続できない
代襲相続はどんな場合に認められるでしょうか?
次に代襲相続について解説します。
代襲相続とは
代襲相続は、法定相続の場合に有効であることを法律で認められています。(民法第887条)
法定相続とは、遺言書がない時に民法により規定された法定割合に沿って遺産が分割されることです。
本来、代襲相続では、相続人が先に死亡した場合は、その子供(孫)が相続できるはずなのです。
しかし遺言で指定された相続人が先に死亡した時には、代襲相続されず孫には遺産は相続されません。
なぜなら最高裁の判例では「遺言は死亡時に効力が発生するので、死亡時に受取人が存在している必要がある」とされ代襲相続は認められていません。
つまり遺言の執行時に相続人の死亡により、遺言で指定された相続人が存在しなくなり、その部分の遺言が無効になるわけです。
相続人の子どもに代襲相続させたい場合
遺言で指定された相続人が死亡している時は、その子ども(孫)には代襲相続はされませんでした。
それでも相続させたいという場合は、前述した予備的遺言をしておく必要があります。
つまり長男に遺言で財産を相続させる旨を記すと同時に、「もし長男に万が一のことがあれば、孫に相続させる」という文言を付け加えることで実質上代襲相続が可能となります。
また孫へ財産をあげたいと思う場合は、遺言で孫に財産を遺贈すると記述しておくことで対処できるでしょう。
代襲相続を防ぎたい場合
相続人が先に死亡した場合の補足的になりますが、法定相続で代襲相続を防ぎたい場合もあるでしょう。
たとえば、遺言者が故人になった時に、残される人が配偶者のみになってしまう場合があるとします。
法定相続では、故人の兄弟姉妹が自分より先に死亡していると、代襲相続としてその子どもである甥姪に遺産が分割されることになります。
しかし甥や姪とは生前ほとんど付き合いがないのに、遺産が譲渡されるのは不本意なものです。
そういった場合には「甥や姪に代襲相続させない」という「遺言」を作成して対処します。
さらに兄弟姉妹や甥姪には遺留分を主張する権利がありませんから財産が行くことはありません。
それで代襲相続させたいときも、させたくない時も遺言書を残すことは有効な対策といえるでしょう。
<参考サイト:相続会議朝日新聞>
遺言書の相続人が先に死亡した時のまとめ
せっかく遺言で指定しても相続人が先に死亡してしまうことは残念なことですが、ありがちなことと言っても差し支えありません。
遺言書を残す時は、色々と万が一を考えて書き記していく必要がありますね。
予測できるようなことはすべて予備的遺言を記しておくことで対処できるでしょう。
しかし遺言を作成しなおす事態もあります。
その際も法律に従った方法で、撤回や書き直しをする必要があります。
いっぽうで、遺言で指定された相続人が先に死亡した場合は、遺産は代襲相続されないことも考慮にいれておきましょう。
自分が築いてきた財産が、死亡した後で自分の意志にそった使われ方をされるよう、遺言書の在り方を考えてみる機会としていただけるなら幸いです。