自動車の相続手続きは複雑!注意点を分かりやすく解説
自動車も家具や家、土地などと同様の立派な相続財産です。
ですから、たとえ故人が長年使用して古くなりボロボロになっていたとしても、相続手続きが必要になってきます。
そして自動車を相続する手続きは、たくさんの書類を揃えたりしなければならず、けっこう複雑で面倒なものです。
この記事では、その大変な自動車の相続手続きのポイントを解説し、スムーズに着手していくためのお手伝いになればと記述しました。
自動車を相続する時の注意点
自動車を相続する場合は、まず名義変更の手続きをすることが何より大切です。
そして名義変更に関して期限が設けられていますので注意しましょう。
名義変更まで売却・廃車処分ができない
車検証上の所有者が亡くなった場合、自動車はいったん相続人全員の共有財産となります。
そして自動車を相続する人が明確になったら「相続人」の名義に変更しないと、売却することも廃車にすることもできません。
名義が自分ものでなく他人のままでは、売却も廃車もできないのは当然ですね。
名義変更せずにそのまま乗り続けることは絶対避けましょう。
まず売却も廃車もできませんし、後になってそれらの手続きをする場合に必要書類を揃えるのも難しくなる上、保険もないままですから万が一の時は大変で重大な事態を招いてしまいます。
そして何より期限も設けられています。
名義変更には15日間の期限がある
自動車の相続手続きを行うことは義務になるのでしょうか。
道路運送車両法には次のように規定されています。
新規登録を受けた自動車(以下「登録自動車」という。)について所有者の変更があったときは、新所有者は、その事由があつた日から十五日以内に、国土交通大臣の行う移転登録の申請をしなければならない。(道路運送車両法第十三条)
<引用元: 法令検索・道路運送車両法>
名義変更には15日間という期限が定められています。
道路運送車両法 第109条2号
第十三条第一項・・・(中略)・・・の規定による申請をせず、又は虚偽の申請をした者は、五十万円以下の罰金に処する。
<引用元: 法令検索・道路運送車両法>
さらに名義変更の手続きをしなかった場合には、50万円以下の罰金が課せられます。
相続した普通自動車を名義変更する流れ
相続した普通自動車を名義変更するにはいくつかの段階が必要です。
1.自動車の名義人を確認する 2.自動車の相続人を決める 3.遺産分割協議書を作成する 4.警察署で車庫証明を申請する 5.名義変更に必要な書類を準備する 6.運輸支局で名義変更手続きをおこなう |
ではそれぞれの段階について、説明していくことにします。
1.自動車の名義人を確認する
車検証に自動車の名義人の名が記されています。
そして車検証は車に備えておくことが義務づけられていますから、車の中を探してみましょう。
もし車検証が見つからない場合は、運輸支局で「登録事項等証明書」を発行してもらえます。
ところで本来は故人所有の自動車なので名義もそうだと思ってしまいがちですね。
ですが、自動車をローンで購入していた場合は、故人ではなく信販会社やディーラーの名義になっていることがあります。
その場合は相続人がローンを完済しないといけません。
ローンを完済してはじめて名義を相続人に移すことが可能になるからです。
ですがローンを完済できない場合は、新たに相続人がローンを組み審査を受け、返済していくことになります。
しかしローンを組んでまで相続したくないと決めた場合は、自動車の名義はローンを組んでいる会社のままになり相続は発生しません。
あくまでも、自動車が相続人の財産とされるためには、その名義を相続人に変更しておくべきことに注意しましょう。
2.自動車の相続人を決める
遺言書があり自動車を相続する人が決まっている場合、名義変更の際には遺言書を添付する必要があります。
遺言書がない場合は、その名義は相続人全員の共有となり、遺産分割協議で誰が相続するか決めなければなりません。
相続人全員の共有財産にすることもできますが、手続きが複雑になってくるため、あまりおすすめできません。
3.遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議で話し合い、誰が自動車を相続するかの内容が記載された遺産分割協議書を作成して添付します。
・自動車の時価が100万円以下である場合
遺産分割協議書ではなく「遺産分割協議成立申込書」という簡略化されたもので手続きができます。
遺産分割協議書は相続人全員の実印が必要で手続きは面倒ですが「遺産分割協議成立申込書」は相続人一人の実印ですみます。
※遺産分割協議成立申込書の申立書類は、運輸局のHPからダウンロードが可能で、また管轄の運輸支局の窓口で受け取れます。
ただし自動車の時価が100万円以下である証明が必要となってきます。
そのために中古車買取業者などで査定してもらった査定証を添付しましょう。
なお、自動車の時価が100万円を超える場合は、正式な遺産分割協議書が必要です。
4.警察署で車庫証明を申請する
警察署に行き申請書類をもらってきて必要事項を記入し捺印し、駐車場のある場所を管轄する警察署で、手数料3000円程度を支払って申請します。
車庫証明の発行は1週間程度ですので、再度管轄の警察署に行き交付を受けます。
5.名義変更に必要な書類を準備する
普通自動車を名義変更するための必要書類は以下になります。
①車検証(車検が切れている場合は名義変更できないので注意) ②車庫証明 ③申請書(運輸支局で入手) ③被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本または除籍謄本 (所有者の死亡を確認する) ④相続人全員の記載のある戸籍謄本 ⑤遺産分割協議書 (相続人全員の実印が押印されたもの) ⑥新所有者の印鑑証明書(発行から3カ月以内) ⑦新所有者の実印 ⑧遺言書で相続人が指定されている場合は遺言書 (自筆証書遺言は、家庭裁判所による検認済みのもの) ※遺言書がある場合は④と⑤は不要。 |
以上が必要な書類となっており、すべて揃ったら名義変更手続きが可能となります。
6.運輸支局で名義変更手続きをおこなう
※運輸支局とは、あまり聞きなれないですが旧陸運局のことで、現在は陸運局と海運局が統合されて運輸支局となっています。
以下が運輸支局での手続きの流れです。
・運輸支局で「手数料納付書」「自動車税、自動車取得税申告書」「申請書」の 3つの書類をもらい作成。 ・登録手数料の支払い、名義変更に必要な印紙代を購入し手数料納付書に貼り付け、 窓口で全ての書類を提出。 ・書類が受理されたら新しい車検証が交付。 |
運輸支局で無事に新しい車検証が交付されたら、晴れて複雑な普通自動車の名義変更が終了となります。
また運輸支局は、平日(8時45分~16時)で時間が限られているため、行けない時も生じるでしょう。
その際は別途費用(1~3万円程度)はかかりますが、書類作成のプロである行政書士にお願いできます。
さらに委任状を添えて行政書士に依頼すると、たくさんある名義変更に関わる書類を取り寄せ、複雑な手続きをすべて丸投げでき代行してもらえますので大いに助かります。
相続した軽自動車の名義変更の流れ
普通自動車と軽自動車では名義変更の手続きをする機関が変わってきます。
軽自動車については、相続人の住所地の管轄の軽自動車検査協会に書類を提出して手続きをします。
さらにその際、遺言書や遺産分割協議書などを添付する必要がない点が普通自動車との違いです。
つまり普通自動車のように煩わしい書類はさほどありません。
なぜなら、故人の軽自動車は中古扱いとなり価格は比較的安く、遺産争いになりにくいという理由があるからです。
ですから、相続人が複数いたとしても、そのうちの一人が自由に名義変更できるようになっています。
簡易的に名義変更手続きを行える
・車検証(車検切れでも名義変更は可能)
・軽自動車を相続した人の住民票(発行から3カ月以内でマイナンバーが記載されていないもの)
または印鑑証明書(発行から3カ月以内)
・自動車検査証記入申請書(ダウンロードするか、軽自動車検査協会の窓口で入手)
・被相続人の死亡事実が記載された戸籍謄本
・被相続人と相続人の関係が証明できる戸籍謄本・軽自動車を相続した人の認印
<引用元:相続会議朝日新聞>
なお、名義変更だけでナンバープレートの変更がない場合は手数料は無料です。
ちなみにナンバーを変更する場合、1,500円程度が必要で、希望ナンバーや図柄ナンバーの場合は4,000円~10,000円程度となっています。
自動車を相続した後の必要な手続き
乗り続ける場合
相続した自動車に乗り続ける場合には、自賠責保険や任意保険の引継ぎや名義変更が必要です。
また家族の間で保険の等級が引き継げる場合とそうでない時があります。
等級が引き継げない時は、保険の見直しや検討も必要かもしれません。
とにかく受け継いだ自動車に乗り始める前には、必ず自動車の自賠責保険や任意保険で引継ぎや変更を済ませてください。
自動車保険の被保険者の名義が変更されないまま、万が一事故を起こしてしまったら損害が補償されないことになりかねず、重大な事態に繋がりますので注意しましょう。
売却する場合
相続した自動車を売却する場合は、通常の売却手続きに加えて相続人であることを証明する必要があります。
以下が通常の自動車を売却する場合に必要となるものです。
・実印 ・印鑑証明書 ・自動車検査証 ・自動車税納税証明書 ・自賠責保険証 ・リサイクル券(自動車の処分費用を車の所有者が負担するもので車検証と一緒に保管) |
下記は上記に加えて必要な書類です。
・故人の戸籍謄本(相続が発生している証明) ・遺産分割協議書(相続人であることや自動車を売却する権利がある証拠) |
以上が相続した自動車を売却する際に必要な書類となります。
廃車する場合
廃車手続きは大きく2つに分けられています。
永久抹消 事故や災害で修理不能となり価値を失った自動車を処分 自動車リサイクル法第8条(使用済自動車の再資源化等に関する法律) 一時抹消 一時的に自動車を利用しないため、自動車税の支払いを止める(道路運送車両法第16条) |
それぞれ必要書類が違いますが、自動車検査登録のホームページで確認できます。
繰り返しになりますが、自動車を相続し廃車する場合も、相続人に名義変更されていないとできませんので注意しましょう。
相続した自動車は相続税の対象になる
車は預貯金や不動産と同じ相続財産で、自動車は家具などと同じ一般動産として評価され相続税の対象になります。
なお、遺産総額が相続税の基礎控除額である「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」以下であれば課税されません。
遺産総額が基礎控除額以上である場合は、自動車などの一般財産に関しての評価方法は財産評価基本通達に定められています。
財産評価基本通達によると、以下の2つの方法のいずれかで相続税評価額が算定されます。
・死亡時の中古車販売業者の買取価格や査定額(売買実例価格) ・類似した車種の買取価格を調査した評価額(精通者意見価格) |
またローン残債が残っている場合には、債務控除され(買取価格-ローン残債額)が相続税評価額になります。
<参考サイト:財産評価基本通達・国税庁>
自動車を相続する場合のまとめ
自動車を相続手続きする際の、ポイントとなる注意点について解説してきました。
自動車を相続するために、最初に必要になってくるのは名義変更です。
名義変更がなければ、自動車の売却も廃車もできないので基本的な手続きといえます。
また普通自動車と軽自動車では、書類そのものや提出する機関が違っています。
そのために必要書類を揃えたりして手続きする流れは複雑でしたが、項目として挙げることで順を追って取り組んでいけると思います。
時間がなく煩雑な書類を揃えたりする面倒なことや、また運輸支局に行けない場合は行政書士に丸投げして代行してもらえますので便利です。
また自動車を相続した後で、乗り続ける場合や売却・廃車にする時にも大事な注意点があります。
この記事を通じて、自動車を相続することに関連した必要項目が分かりやすくなり、複雑な流れも手際よく対処していけますよう願っております。