遺言書があっても相続放棄はできるか?遺言内容で異なる注意点!
故人が残した遺言書がある時、相続放棄をすると故人の遺志を無にしてしまいそうで、躊躇してしまうのではないでしょうか。
また受取人に指定された場合は、受け取るべき義務が生じるのではないかと疑問が出てきますね。
そうした状況でも相続放棄はできるのでしょうか?
この記事を通じて、遺言にある内容によって対処の仕方が異なってくることや注意点について解説していきます。
遺言書があっても相続放棄はできるか?
遺言書の効力は強いものですが相続放棄はできます。
遺言があった場合でも相続放棄を禁止する規定はありません。
ただし遺言に相続や遺贈が記されている時は、放棄の仕方に違いが出てきますので注意が必要です。
遺言にある相続は「特定財産承継遺言」と言われているものです。
それは法定相続人に法定相続割合で分けられる通常の相続とは状況が違ってきます。
また相続人には相続も遺贈も可能ですが、相続人以外に遺産を譲る場合は「遺贈」しかありません。
どの場合も相続放棄はできますが、遺贈にも2種類あり相続放棄の方法にも違いがありますので順に説明していくことにしましょう。
効力のある遺言とは?
遺言とは故人が生涯をかけて築いた財産を、有効に使ってもらうために残す最後の意志表示です。
そして残された家族が戸惑ったり争ったりしないようにという故人の配慮でもありますね。
さて遺言には3つの種類があり、故人の最後のメッセージとして書面にしたものが遺言書です。
① 公正証書遺言 ② 自筆証書遺言 ③ 秘密証書遺言 |
以上の3つの遺言書は、それぞれ法律によって厳格な方式が定められ
て
おり、ちょっとしたメモ書きやノートに記入されたようなものではありません。
そして生前に判断能力が認められた場合に有効になるもので、認知症の方や精神疾患があって判断能力に問題がある時の遺言書は無効になってしまいます。
また生前に「財産は全部お前にやる!」と言っていたとか、たとえそれを録音録画した故人の言葉であっても遺言としては全て無効です。
また遺言書を見つけても勝手に開封してはいけないことにも注意してください。
遺言書は「家庭裁判所において相続人の立会いの下で開封しなければならない」と法律で定められているからです。(民法1004条3項)
これに違反すると5万円以下の過料が科せられることがあります。
ただし開封したからといって遺言書が無効になることはありません。
ですから、遺言書の有効性や扱い方についての知識は、相続の問題では必須といえるでしょう。
<引用元:裁判所>
相続放棄とは?
遺産にはプラスとマイナスの財産があります。
相続放棄は、それらの遺産を相続をする一切の権利を放棄することをいいます。
以下に相続放棄のメリットと注意点を簡単に解説していくことにしましょう。
相続放棄する3つの例
相続放棄する場合は以下の場合が考えられます。
・故人が多額の借金を遺している ・相続トラブルに巻き込まれたくない ・相続したくない財産がある |
・故人が多額の借金を遺している
相続にはマイナスの遺産も引き継がれますから、取得する遺産をトータルした時マイナスが出る場合に選択されます。
しかし思いがけないところからプラスの遺産が出てくることがありますので十分な調査が必要です。
・相続トラブルに巻き込まれたくない
相続放棄すると相続人から外れますので、遺産分割協議にも参加しなくてよくなり遺産をめぐるストレスやトラブルから解放されます。
・相続したくない財産がある
たとえば不動産を相続するに際して、その所在地が相続人の居住地から距離があり管理が難しく税金対策としては不利という場合などです。
<参考元:相続専門サイト>
相続放棄の注意点
以下の3点に注意しましょう。
・プラスの財産も全て相続できない ・一度放棄すると撤回できない(民法919条1項) |
なお故人の財産に手をつけてしまうと相続放棄ができなくなることも注意点です。(民法第921条 第1項)
また一方で、マイナスの財産のみ相続したくない場合は、限定承認という相続方法もありますので、遺産の全体額を考慮しながら決定していくといいでしょう。(民法922条)
☆生命保険金や死亡退職金について
故人が受取人の場合 | 相続財産になる | 相続放棄をすると受け取れない |
故人の家族が受取人の場合 | 相続財産にならない | 相続放棄をしても受け取れる |
生命保険の受取人になっているなら、相続放棄して生命保険だけ受け取るという方法もありますね。
<引用元:生命保険文化センター>
遺言の相続と遺贈の違い
法定相続人には故人の遺産を法定相続分を相続する権利を持っています。
本来は遺言書がなくても法定相続割合に応じて遺産が分割され手続きが進められていくものです。
しかし遺言書にあえて「○○に相続させる」という文言が書かれていることがあります。
それを「特定財産承継遺言」と呼ばれています。
これに対し相続人に遺言で「遺贈させる」という場合もあります。
これからその違いについて説明したいと思います。
「特定財産承継遺言」とは?
法定相続人が財産を取得する場合は、遺言で「相続」も「遺贈」もできます。
ここでまず「特定財産承継遺言」のことを解説します。(民法1014条2項)
遺言に、たとえば「長男に工場を相続させる」とある場合は、長男は工場を継承できます。
特定財産承継遺言は、相続を受けた人が単独で登記できるという手続き上のメリットがあります。
遺言がない場合は、相続人全員の同意がなければ名義変更ができないからです。
またその場合の不動産取得税は発生しません。(地方税法第3条第1項第1号)
それでは上記の「工場を相続された長男」の2つの状況について説明することにしましょう。
・工場は遺産分割から外され長男のものとなり、残りの遺産も法定相続分に応じてもらえます。 ・しかし工場の価値が高い場合は、他の相続人から遺留分を主張され「遺留分侵害請求」をされることになると、長男は遺留分を支払わないといけません。 |
その額が侵害されたという時に法定相続人は侵害している人に対して「遺留分侵害額請求」を行えます。(民法1046条1項)
<参照元:東京弁護士会>
ですが長男が諸事情で工場を相続したくない場合など、たとえ遺言に書かれてあったとしても相続放棄ができます。
この場合は、特定財産承継遺言は放棄できないことになっているため、相続人としての全遺産の相続放棄となります。
そのため他の遺産を取得する権利も失ってしまいますから、熟慮し注意して行ってください。
なお「特定財産承継遺言」がある時でも、遺産分割協議の話し合いで、相続人同士が納得し合意している場合は、遺言とは違った内容の分割になってもいい場合があります。(民法908条)
<参照元:三菱UFJ銀行>
遺贈とは?
相続人にも相続も遺贈もできましたが、相続人に遺贈する場合は相続と違って手続きが煩雑になってきますので注意が必要です。
しかし遺言の内容で、相続か遺贈か見分けがつきにくいこともあります。
そんな紛らわしい時は、専門家に思い切って相談した方がいいでしょう。
ところで相続人以外が財産を取得する場合はいつでも「遺贈」となります。(民法964条)
遺贈は、故人が生前にお世話になった人や甥や孫に遺産をあげたい場合に遺言に記されます。
中には長年、甲斐甲斐しく介護や世話をしてくれた長男の妻に、多額の預貯金が遺贈された例もあります。
特定遺贈と包括遺贈それぞれの注意点!
遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」の2つの種類があります。
その2つでは相続放棄の仕方も変わってきますので注意しましょう。
特定遺贈と注意点
特定の財産を指定して行う遺贈です。
たとえば「〇銀行の預金200万円を孫のAに遺贈する」と遺言にあった場合が特定遺贈となります。 孫は法定相続人ではないので、遺産分割協議に参加することなく遺産をすぐに受け取れます。 そして特定遺贈は財産を譲り受けるもので「負債を受け継がない」ことになっています。 |
しかし法定相続人以外の者が不動産を特別遺贈された場合は、不動産取得税や登録免許税が課せられます。
またそれ以外に相続税も2割増しで発生してきますので注意しましょう。
<参照元:国税庁>
また特定遺贈の額が多すぎると法定相続人の遺留分を侵すことになり、「遺留分侵害額請求」がなされトラブルになりやすいことも注意点です。
包括遺贈と注意点
財産内容を指定せず、全体や割合を示して行う遺贈のことです。(民法990条)
たとえば「全財産をAに遺贈する」または「財産の2分の1をBに遺贈する」という場合です。 包括遺贈される人は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も引き継ぐことになりますので注意が必要です。 上記の例の財産の2分の1を包括遺贈されたBは、マイナスの財産も2分の1を支払わなければなりません。 また割合だけが指定されて具体的な財産が決まっていないので、法定相続人ではなくても遺産分割協議に参加して、どの財産を受け継ぐかの話し合いに参加する必要が生じます。 |
ですから場合によっては、他の相続人とトラブルになったり、骨肉の争いに巻き込まれる心配があります。
それで遺言を残す人も、相続人以外の人に包括遺贈をする時には熟慮して行うべきでしょう。
<参照元:相続会議朝日新聞>
特定遺贈の放棄の仕方とは?
たとえば相続人以外の者が、特別遺贈で不動産を遺贈されたものの、その後の固定資産税や不動産を管理する責任と費用が発生してきます。
そうした事情を考えて「その不動産はいらない」と結論した時は相続放棄ができます。
特定遺贈は、可分の場合は一部を受け取り一部を放棄することも可能です。 そして特定遺贈を放棄する場合は、相続人に「財産はいらない」と口頭で伝えるだけで放棄が成立しますので簡単ですね。 なお郵便で内容を送付した方が確かなので、放棄した証拠を残すために内容証明郵便を送ることをおすすめします。 |
ですから裁判所での手続きなどもいりませんし「いつまでに放棄しなければならない」という期限もありません。
いっぽう、相続を相続放棄をした場合でも特別遺贈なら受け取れるというメリットがあります。
しかしこれを相続人が特別遺贈だけ受け、その後相続放棄をして負債を免れようとする場合があるとします。
そうした場合は、特定遺贈が信義則違反として無効になってしまったり、詐害行為として取り消されてしまう可能性がありますので倫理に沿って遺言書を作成することが肝要です。(民法424条)
しかしながら特定遺贈は、受け取る時も放棄する時も比較的単純な遺贈の仕方だといえるでしょう。
<参照元:相続会議朝日新聞>
<参照元:岡山大学法学会雑誌>
「特定財産承継遺言」と「包括遺贈」の放棄の仕方とは?
包括遺贈は特定遺贈と違い、相続人に意思表示をしただけでは放棄したことにはなりません。
また特定財産継承遺言も同じです。(民法第990条)
前述しましたが、特定財産継承遺言は法定相続人に対しての遺言となりますので、相続放棄すると他の財産も受け取れなくなりますから、期限までに熟慮を要するものですね。
放棄する人が誰かによって放棄の必要書類は変わりますが、どちらの放棄も故人が居住していた管轄の家庭裁判所へ申述する必要があります。(民法第938条)
<引用元:裁判所>
相続放棄の期限はあるか?
「相続開始と自分が相続人であることを知ってから3か月以内」
もしくは「自分に包括遺贈があると知ってから3か月以内」です。
特定遺贈には期限はないのですが、相続人から相当の期間を定めて意志表示するように催促されることがあります。(民法第986条1項)
その際、期日までに返事しないとその遺贈を受けたことになってしまいます。
そうなると相続放棄はできなくなりますので注意しましょう。(民法第987条)
それで熟慮期間が設けられていますので、遺贈が自分にとって本当に良い結果を及ぼすかどうかを、よく考える必要がありますね。
まとめ
効力のある遺言書は、遺産相続では強い影響力を及ぼします。
そして遺言書の中に記載されている遺産の使い道は、遺言書を書いた故人にとっては重要なことです。
さて遺言書にある遺産の種類には、相続人に向けられた「特定財産承継遺言」と、相続人以外も対象になる「遺贈」があります。
そして遺贈の中にも「特定遺贈」と「包括遺贈」とがありましたね。
特定遺贈は特定の遺産を譲る場合であり、包括遺贈は割合だけが指定されています。
遺言書に記載されていたとしても、譲られる側の人にとって、どうしても故人の遺志に沿えない時も生じることがあります。
また遺言は遺産で揉めないようにとの意図があったものの、それに反し相続人同志のトラブルになる場合もあります。
そうした状況が生じるなら、遺言にあっても相続放棄ができました。
遺言にある「特定財産承継遺言」や「遺贈」も、相続放棄をする場合には注意点があります。
故人の遺志を尊重しながらも、現世を生きる者が不利益を被らないために、必要に応じ賢く相続放棄の手順を踏んでいくことにしましょう。