遺言と法定相続分で優先されるのは?遺留分とトラブルに注意!
遺言書と法定相続分でどちらが優先されるものでしょうか?
遺言書にはどんな遺産分割の方法を指定しても通るものでしょうか?
今や相続財産が5000万円までの決して資産家とはいえない家庭でも相続争いが生じている世の中です。
その場合はどんな問題が争点になるのでしょうか?
本来なら遺言書はそうした争いやトラブルを避けるために書かれるものです。
それでこの記事が、賢明で有効な遺言書の作成のために、大いに参考になればと願っております。
遺言と法定相続分ではどちらが優先されるか?
遺言書にある内容が優先されます。
遺言が優先される根拠は、民法の三大原則のうち以下の二つが関係しています。
・私的自治の原則 私法の原則に「国家権力の干渉を受けずに、各個人が自由意思に基づいて自律的に行う」とあり、生前に築いた財産について遺言書で自由に分割を指定できます。 ・所有権絶対の原則(憲法29条、民法206条) 「自分の所有する財産の扱いについては何者の干渉も受けず自由に決めることができる」という原則も財産分割が自由にできることを保障しています。 |
以上の二つの原則から、国が定めた法定相続分よりも遺言書が優先されて扱われるわけです。
遺言書とは?
生前に遺言によって財産を処分することが認められています(民法964条)
遺言によって財産を誰にどれだけ残すかの意思表示ができ、それを文書にしたためたものが遺言書です。
遺言書は民法によって厳正に決められた方式があり、書面に記されたものが有効です。
ですからビデオレターや音声で録音されたものは、遺言としての効力がありませんので注意してください。
遺言書を作成すれば、法定相続分にかかわらず、遺言者が自由に相続割合を指定できます。
たとえば相続人以外の第三者や慈善団体への遺贈も可能になったり、お世話になった人や介護をしてくれた人にも分けられ、故人の遺志として尊重されることでしょう。
法定相続分とは?
民法で法定相続人に決められている相続割合のことです。
しかし法定相続割合には法的な強制力はないため、遺言がない場合は遺産分割協議を行い法定相続人の話し合いで、分割割合を自由に決められます。
法定相続人はいつでも配偶者と子が優先ですが、子がいない場合は少し複雑になってきます。
以下の表で法定相続分の割合を示します。(民法第900条)
配偶者のみ | 相続財産の全部 |
配偶者と子 | 配偶者1/2 子1/2 |
子のみ | 相続財産の全部(子が複数いるなら均等に分割) |
配偶者と直系尊属(父母) | 配偶者2/3 直系尊属1/3 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者3/4 兄弟姉妹1/4 |
直系尊属のみ | 相続財産の全部 |
兄妹姉妹のみ | 相続財産の全部(複数の兄弟姉妹がいるなら均等に分割) |
遺言書を法定相続人に見せる義務
遺言書があることを生前に知らせていたり、相続人がその存在を知った時には、他の相続人にも知らせる必要があります。
特に遺言執行者が選任されている場合は、遺言書を法定相続人に見せる義務があり、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。(民法1007条2項)
また相続人以外の人に知らせる義務はありません。
そして遺言執行者とは、遺言書に書かれた遺言の内容を正確に実現する者のことです。
未成年や破産者以外は誰でもなれますが、法的な知識を持っている人が望ましく、遺言書を書いた時点で遺言執行者として選任したことを知らせておく必要があるでしょう。
なお遺言執行者が選任されていない場合でも、遺言の内容は相続人すべてが知る権利があります。
遺言書が必要になるケース
遺産を「法定相続分通りに分割してほしい」という内容の遺言もありますが、遺言書がない場合はほとんど法定相続分どおりに分配されます。
しかし法定相続分どおりにいかないこともあり、そうした場合に遺言書が作成されることになるのです。
以下に5つの具体的なケースを紹介しておきます。
・生前に同居してくれていた子に家を譲りたい
子が複数人いた時、家や土地といった不動産は分けられませんから、同居していた子がそのまま住めるように家を相続させたい。そのかわり他の子には他の財産を相続させるというケースがあります。
・事業を継承させたい
事業も分割できませんから、それまで継承してくれていた子に、会社や工場をそのまま引き継がせたい旨を遺言で記せます。
・子がない場合
子供がおらず故人に兄弟姉妹がいる場合は、兄弟姉妹に1/4の財産を分けないといけませんが、できるなら高齢で健康に問題がある配偶者にすべてを相続させたい時もあります。
・世話になった人に遺贈したい
相続人ではないものの、長年介護や生活面で世話になった長男の嫁に預貯金を残したい時や、並々ならぬ大きな世話をしてくれた人にお礼として遺贈したい時などです。
・愛人や内縁の妻にすべての財産を譲りたい
相続人にあたる親族には生前にたくさん支援してきたので、残りの財産は愛人や内縁の妻に相続させたいこともあるかもしれません。
他にもケースがあるかと思いますが、どんなケースであっても遺言書で指定する場合は、相続人が納得できるように理由を記したり、生前に話し合い了解を取っておくならトラブルはかなりの程度防げるでしょう。
それでもトラブルに発展しやすいのが遺産相続です。
トラブルなった場合、相続人が取る行動について次に記述します。
遺言は遺留分に配慮しトラブルを未然に防ぐ
遺言書でこれといった理由がなく「長男にすべての財産を相続させる」という内容が記されているとします。
子が他にもいる場合は特に、遺言内容のあまりの不公平さに大いに不満を抱くことでしょう。
このような場合には「遺留分侵害額請求」を行って、遺産配分の不公平さを正せます。
では遺留分とは何で、遺留分侵害額請求とはどのようなものなのでしょうか。
以下に説明したいと思います。
遺留分とは?
「遺留分」とは、相続できる遺産の最低限の保証額のことです。(民法1042条)
そして遺産を貰えなかった相続人の生活が露頭に迷うことがないように配慮されています。
なお遺留分の権利は遺言書でも奪うことができませんので、遺留分に配慮した遺言にしておく必要があるでしょう。
また遺留分が認められているのは、兄弟姉妹以外の相続人で兄弟姉妹には遺留分はありません。(民法1042条1項)
遺留分の計算方法
・配偶者、子の場合の遺留分・・・相続財産の1/2に法定相続分をかけた金額 配偶者は 1/2×1/2=1/4 子が二人の場合 1/2×1/2×1/2=1/6 ・直系尊属のみの場合の遺留分・・・相続財産の1/3に法定相続分をかけた金額 母のみの場合 1/3×1/3=1/9 |
遺産総額が3000万円の場合の遺留分の算定の具体例をあげます。
遺産総額が3000万円の場合の遺留分 A 相続人が配偶者と子の場合 配偶者で1/4、子は全員で1/4を等分します。 例)母、子供2人 母750万円、子375万円、子375万円 B 相続人が配偶者と父母の場合 配偶者(子、孫がいない)が1/3、親は1/6。両親とも健在であれば2等分します。 例)配偶者、母、父 配偶者1000万円、母250万円、父250万円 C 相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合 配偶者(子、孫、父母、祖父母がいない)が1/2、兄弟姉妹には遺留分はありません。 例)配偶者、兄、姉 配偶者1500万円、兄0円、姉0円 |
もし遺言に「愛人に全財産3000万円を譲る」とされていても、上記のいずれの場合も遺留分として1500万円が確保されることになり、愛人には1500万円だけが遺贈されることになります。
ですから遺言書を作成する場合は、遺留分に配慮しておかなければ、故人の意志があまり反映されない結果となることがありますので注意しましょう。
遺留分侵害請求
遺留分を下回る遺産しか相続できなかった相続人は、その不足額に相当する金銭を、遺産を多めに承継した者に対して請求できます(民法1046条1項)
前述した遺留分の金額を請求された場合は、金銭で支払わなくてはなりません。
遺留分は請求しないと支払われることはありませんから、内容証明付きの郵便で請求内容を送付するようにしましょう。
なお遺留分侵害請求には時効があるので注意してください(民法1048条)
相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年です。
知らなかった場合は、相続の開始から10年で時効となり消滅しますので、早目に気づけるよう親族との付き合いを日頃からマメにしておくといいでしょう。
遺言書が無効となる場合
もし遺言書の分割方法に相続人の間で異論が生じ、遺産分割協議がまとまらず争いになったとします。
そして家庭裁判所において遺産分割審判になった場合には、原則として法定相続分に従った分割での遺産相続が指定されてしまい、せっかくの遺言書も無駄になってしまいます。
また相続人全員また遺贈者の合意があれば、遺産分割協議を行い遺言書と異なる相続割合や法定相続分での分割が可能となります。
ですから遺言書を作成するにあたり、遺留分や遺言が無効になるようなトラブルを避けた内容にしましょう。
遺言書の作成後はできるだけ相続人にも見せて、話し合い納得してもらうのが一番賢明なことです。
遺言書を有効にするために
☆公正証書遺言の方式で作成する(民法969条)
遺言書には他に自筆証書遺言と秘密証書遺言がありますが、遺言内容に納得がいかない相続人から、「不備があり無効」だと主張されやすいです。
公正証書遺言は、法務省管轄の公証役場で作成される公文書で、法的知識が豊かな公証人が作成し、安全性と信頼性があります。
ですから無効を訴えられることはほとんどないといえるでしょう。
☆判断能力が十分なうちに作成する
遺言書で揉める原因の一つとして、遺言作成時の判断能力が問われることがあげられます。
ですから終活の一つとして、まだ心身が健康なうちに遺言書を作成しておくことをおすすめします。
遺言書には時効はありませんので古くても有効ですし、また何かのきっかけで内容を見直せるので早目に記しておくことは賢明といえますね。
☆専門家に相談しながら作成する
遺言で揉めて遺言書が無効になってしまわないように、費用はかかりますが専門家の助けを借りながら遺言書を作成しておくと安心です。
専門家はトラブルになりがちな点があらかじめ分かり、それを防ぐための書き方などをアドバイスしてくれます。
遺言書の記述事項に漏れがないかもチェックしてくれますので、有効な遺言書作成つくりに活用しましょう。
まとめ
遺言書は自分が築いてきた財産を有意義に使ってほしい意志を示せるもので、法定相続分に左右されないで自由に財産を分割できました。
そして何より遺言書の内容が優先されて扱われるものです。
しかし内容が不公平だったりすると、故人になった後でトラブルを招くことがありますね。
遺留分を請求されたり、遺言書が無効だと訴えられかねないのです。
もし遺言書を書いたのなら、相続人と内容について話し合い、事前に了承を得ておくことは賢明なことといえるでしょう。
道理にかなった遺言書の作成のため、専門家と相談しながら公証証書として残し、円満な遺産相続が行われるようにしたいものですね。
何よりせっかく築いた財産が、感謝されて有効に使われるのは嬉しいことではないでしょうか。
故人となった時のために賢明な遺言書を作成しておきましょう。