自筆証書遺言書の訂正方法を画像で解説
自筆証書遺言は、遺言者自身が遺言の全文を自筆で作成し押印をする遺言書をいいます。
自筆証書遺言書の訂正や削除方法は民法で厳格に規定されており、書き方を誤ると訂正自体が無効になる場合もあります。
もっとも、2019年の民法改正によって、付随する財産目録についてはパソコンや代筆が認められましたが、その場合でも全ページへの署名・押印が必要です。
本章では、自筆証遺言書の訂正方法について、初心者にもわかりやすく解説しています。
添付する画像も参考になさり、間違いのない遺言書を作成しましょう。
自筆証書遺言書を作成する場合、民法では次のように遵守すべき要件があります。 ①自筆証書遺言の作成には、遺言者自身が全文・日付・氏名を自書し、これに押印すること。 ②添付する財産目録が自書でない場合は、遺言者は全てのページに署名・押印をすること。 ③自筆証書遺言書の訂正について、その箇所を指示したうえで、訂正などを付載して署名し、訂正箇所に押印すること。 これらの要件がクリアされないと、自筆証書遺言書の効力は生じません。(民法第968条) 遺言作成に誤りがないように、まずはきちんと確認しておきましょう。 |
自筆証書遺言書はいつでも訂正ができる
ご家族や大切な人に「良かれ」と思って書いた遺言も、年月の経過とともに自身の心情が変わる場合もあるでしょう。
あるいは、不動産の購入や定年退職といった「財産状況」に大きな変化が生じることで「書き直す」必要もでてきます。
こうした場合でも、自筆証書遺言書は「いつでも・何度でも」作成後の書き直しができるのが特徴です。
こちらの記事では「遺言書作成を行政書士に相談するメリットや費用について」詳しく説明してますので合わせてご覧ください。
遺言者はいつでも遺言書を撤回できる
民法では、自筆証書遺言書の訂正について次のように明記されています。
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
民法第1022条
これは、法律で規定された「遺言方式に従う」ことで、遺言書の訂正や撤回が可能であることを示唆しています。
つまり、自身で作成した自筆証書遺言書がお手元にあるならば、いつでも訂正や破棄が可能であり、改めて作成することもできます。
複数個の遺言書を作成した場合はどうする?
複数個の遺言書を作成した人で「過去に作成した遺言書内容」と「現在作成した遺言書内容」が異なる場合、異なる部分については現在作成したもの(年月日が新しい遺言書)が有効となります。(民法第1023条1項)
ただし、遺言書がいくつもあると、将来的に相続人同士のトラブルに繋がりかねません。
そのため、年数の古い自筆証書遺言は破棄し、新たに遺言書を作成したほうが相続人にとっても安心です。
一方、遺言作成後に遺言書に記載した内容と異なる場合(例えば遺言書に記載した自動車を「すでに処分をしてしまった」という行為は、その異なる遺言部分に対して「撤回」したものとみなされます。(民法第1023条2項)
こちらの記事では「遺言書の書き方と注意事項」が記載されてます。
遺言書の無効回避の方法もわかるので、是非ご覧ください。
自筆証書遺言書の訂正方法
自筆証書遺言書の訂正について、民法では次のように明記しています。
自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
民法第968条3項
(※民法では自筆証書遺言書の「一部分の訂正」を「加除訂正」と呼んでいます)
ここでは、自筆証書遺言書の正しい訂正方法と注意点を確認しましょう。
遺言書の中でも公正証書遺言は、公証人が作成するため訂正の必要はありません。 自筆証書遺言書と秘密証書遺言書の場合は、以下で説明する訂正ルールを厳守しましょう。 |
遺言作成後の4つの訂正ルール
遺言書の作成方法は法律によって厳しく規定されており、「訂正」や「追加」あるいは「削除」等の変更は、民法に則って作成しなければなりません。
遺言作成後の部分的な訂正を行う方法として、次の4つの訂正ルールがあります。
これらの原則を厳守することで、変更後の遺言効力がはじめて認められます。
(※訂正の他にも削除や加筆する場合も同様です)
訂正箇所を示す | 訂正する箇所の「本来の文字」がきちんと見えるように二重線を引きます。 |
欄外に変更したことを記載する(例:7行目 4文字削除) | 横書きを訂正する場合は「二重線の上」に吹き出し(挿入記号)を書いて、正しい文言や数字を記入します。 (縦書きの場合は「二重線の左側」に吹き出しを書いて正しい文言を入れましょう) |
変更箇所に署名をする | 欄外の余白(遺言書の末尾)に、訂正及び変更したことを記載します。 例えば「上記○中、○字削除 ○字追加」のように、削除や追加した文字数を記載して署名します。 (あるいは「本行で○字訂正 ○字加入」、「本遺言書の○行目の甲を己に訂正をした」のように記載して署名をします) |
変更箇所に押印をする | 訂正文字の「二重線」の「すぐ真上」に、訂正印を押しましょう。 なお、二重線の中の「本来の文字」が見えるように訂正印を押すことがポイントです。 |
ここでは、遺言書の間違った訂正例を元に、民法で規定されている「訂正方法」について具体的にみてみましょう。
遺言書の間違った訂正例①
出典元:東京法務局
【例①】では、訂正箇所に二重線が引かれているものの、欄外に変更した旨の記載がありません。
さらに、変更箇所への署名や押印がなされておらず、正しい変更内容とはいえません。
遺言書の正しい訂正例②
出典元:東京法務局
【例②】の用に、訂正箇所が見えるように二重線を引き、訂正や追加あるいは削除したことを付記として署名・押印を行います。
自筆証書遺言書を訂正する際の注意点
遺言書を訂正する際に、以下の点に注意する必要があります。
- 訂正箇所を黒く塗り潰してはならない。
- 訂正箇所に「修正液」や「修正テープ」等の修正用具を使用してはならない。
- 遺言書の作成は消えにくいボールペンや万年筆を使用する。
- 印鑑は、遺言者自身が署名押印に使用したのと同じものを使う。
(※押印は万が一のトラブル回避のためにも「実印」を使用すると安心です)
この他にも、遺言書の作成日として「○年○月○日」とせずに「○年○月吉日」との記載は、作成日の不明によって遺言書自体が無効になります。
また、遺言者の署名には「戸籍上の氏名」を記入する必要があり、ニックネームやイニシャルなどの署名は避けましょう。
自筆によらない財産目録の訂正方法
財産目録とは、遺言者の所有する財産内容を一覧表としてまとめたものです。
相続財産が多くなる場合や相続人が複雑なケース等は、誰に何を渡すのかを明確にするためにも財産目録は不可欠です。
なお、民法では財産目録をパソコンで作成する場合にも変更が可能であると明記されています。
ただし、規定と異なった訂正方法の場合、財産目録の訂正が無効になり「訂正前の効力」となるので注意が必要です。
財産目録を添付する場合の4つの訂正ルール
遺言書の法改正によって、自筆以外(パソコン作成等)の財産目録を添付する場合、遺言者は財産目録の全ページに署名押印をしなければいけません。(民法第968条2項)
財産目録が片面だけの場合 | 裏表どちらか1箇所に署名・押印をする |
財産目録を両面に記載している場合 | それぞれに署名・押印をする |
財産目録が全ページにある場合(3ページある場合は3枚全て) | 全てのページに署名・押印をする |
不動産の登記事項証明書や通帳のコピーを添付する場合 | 目録全てのページに対して署名・押印をする |
パソコン作成等の自筆以外で財産目録を作成した場合、遺言全文を書いた自筆遺言書と同一用紙での作成はできません。
訂正方法が規定通りでないと、財産目録の訂正自体が無効になり「訂正前の効力」となるため注意しましょう。
財産目録を「自筆証書」に遺言した場合、遺言書の一部分を訂正する方法と同様の作業を行います。 具体的には、遺言者が訂正箇所を示して欄外には変更内容を記載しましょう。 変更箇所に署名・押印をすることで遺言の効力が発生します。(民法第968条1項・3項) |
参考元:法務省
参考元:東京法務局
財産目録の間違った訂正例①(署名・押印が漏れている)
出典元:東京法務局
上記【例①】では、財産目録をパソコンで作成してますが、署名・押印が漏れています。
財産目録の正しい訂正例②(全ページに署名・押印をする)
出典元:東京法務局
パソコン作成による財産目録を添付する場合、【例②】のように、全ページへの署名・押印が必要です。
参考元:政府広報オンライン
参考元:東京法務局
付言事項の間違った作成例①(付言事項をパソコンで作成した)
出典元:東京法務局
自筆証書遺言書では、遺言全文はもちろんのこと「付言事項」も自書でなければなりません。(※パソコンでの作成は財産目録のみです。)
ですので、どんなに署名・押印がなされていても、パソコンによる付言事項は無効になります。
付言事項の正しい作成例②(付言や遺言全文は自筆で作成する)
出典元:東京法務局
自筆証書遺言による遺言全文あるいは付言事項は、自書での作成が規定されています。(民法第968条)
したがって、財産目録以外は上記のように自筆で書くことを念頭に入れましょう。
財産目録の間違った作成例①(自筆やパソコンでの記載が混合している)
出典元:東京法務局
パソコンで財産目録を作成した場合、自筆による遺言本文は「別紙」で作成する必要があります。
上記【例①】のように、パソコン作成の財産目録と同じ用紙に「自書」による遺言本文を書き入れることはできません。
また、パソコン作成の財産目録をコピーして、その空白欄に「自書」にて遺言本文を書き入れる行為も無効になります。
財産目録の正しい作成例②(遺言全文と同一の用紙を使わない)
出典元:東京法務局
上記【例②】のように、財産目録をパソコンで作成する際は、「パソコンによる財産目録」」と「自筆による遺言本文」の用紙を分けて作成する必要があります。
一つの用紙に「パソコン」と「自筆」が混合しないようにくれぐれも注意してください。
自筆証書遺言書の訂正のまとめ
自筆証書遺言書の訂正は、民法にしたがって次のように行います。
- 訂正箇所に二重線を引く
- 二重線の上あるいは左側に「吹き出し」を書き、正確な文言・数字を記載する
- 欄外に訂正・変更内容を記載する
- 訂正・変更箇所に押印をする
財産目録(自筆以外)を添付する場合の訂正は、財産目録の全てのページに押印・署名を記載しましょう。
なお、財産目録のみパソコンでの作成が可能となり、付言事項や遺言全文は必ず「自筆」にて「別紙」で記載する必要があります。
もっとも、遺言書の作成は行政書士などの専門家に依頼することで、形式不備による無効や思わぬ事態を回避できるため検討なさると良いでしょう。