遺言書で全財産を一人に相続は可能か?具体的なケースや対処法を解説!
遺言書には生前築いてきた自分の財産を自由に分割でき書面として残すことができます。
一人に全財産を相続させるという遺言も可能です。
どんな場合にそうした遺言が書かれるのでしょうか?
またトラブルに発展していかないでしょうか?
この記事では一人に財産を相続させるケースや想定されるトラブルと遺言書の工夫について解説したいと思います。
遺言書で一人に全財産を相続させることは可能か?
遺言書で一人に全財産を相続させることは可能です。
遺言書は私的自治の法則と所有権絶対の原則(憲法29条・民法206条)で守られた効力のある文書です。
これらの原則に基づいて、遺言書で自由に自分の財産を分割したり処分したりできるようになっています。
ですから遺言書は生前に自分の財産の残し方を記した意思表明として尊重されるべきものですね。
ただし相続人が一人でなく複数いる場合は、遺産相続でトラブルになりやすいので注意が必要です。
複数の相続人がいる中で、一人に全財産を相続させる場合は、想定されるトラブルとして--別の相続人から遺言書がそもそも有効かどうか疑問を投げかけられたり、遺留分を請求されたりすることがあります。
遺留分とは遺産相続を得る最低の保証額で、遺言書によっても否定できない相続人の権利です。
そうした状況を踏まえて、一人に全財産を相続させる遺言を残す場合は慎重に検討すべきことといえます。
ではどんなケースで一人に相続させることがあるのでしょうか。
遺言で一人に相続させる具体的なケース
・夫婦に子供がいない ・一人に相続させる方が手続きが簡単 ・他の相続人には生前に十分な援助をしていたとき ・第三者に遺贈したい ・他の相続人とは不仲 |
夫婦に子供がいない
子どもがいれば法定相続人は配偶者と子どもですが、子どもがいなければ直系尊属(両親・祖父母)あるいは義理の兄弟姉妹となります。
両親・祖父母は他の親族から十分な世話を受けている場合に、残された配偶者を気遣って全財産を配偶者一人に相続させることがあります。
この場合「高齢で健康にも問題がある配偶者の今後の生活を考えて全財産を配偶者一人に相続させる」旨の遺言書が書けます。
遺言書には一筆、直系尊属や兄弟姉妹を思いやる言葉を残すといいでしょう。
なお直系尊属の遺留分は1/6ですが、兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。
一人に相続させる方が手続きが簡単
遺産に預貯金などの現金資産がなく、住んでいる家といった不動産だけの場合があります。
その際は、土地や家を分けることはできませんので、一人に相続させた方がスムーズに手続きが進んでいきます。
つまり「家・土地を最期まで同居して介護してくれた長男の名義にしたい」というケースです。
また会社や事業も分けられないですから、引き継いでくれる一人の相続人に、事業に関係する財産を相続してもらった方がスムーズにいくでしょう。
これらのケースは、生前に相続人となる親族に事前に話をして納得してもらう必要があります。
生前に十分な援助をしてきた相続人がいる
他の相続人には生前に十分な資金援助をしてきたが、一人の相続人にはあまりしてやれなかった場合、不公平をなくすため一人に相続させたいケースがあります。
たとえば、2人の娘がいたとして、長女には結婚資金や孫のために支援してきたが、次女は独身でまだ何もしてやれていないという場合、次女一人にすべてを相続させたいときです。
そんな場合は、相続人の間で支援や生前贈与などで格差があったことを説明し、長女の納得を取り付けておくことが大切です。
相続人以外の第三者に遺贈したい
相続人以外の第三者に財産を相続させる時は、遺贈という形で行われます。
たとえば息子の嫁や、養子縁組をしていない婿養子、相続人ではない孫や内縁の妻などに全財産を渡したいというケースです。
そういうケースは「最後まで甲斐甲斐しく世話をし介護してくれた長男の嫁」や「事情があって入籍できなかったが支えてくれた内縁の妻」にすべての財産を遺贈したいと思うことでしょう。
また相続人の子どもたちには十分に生前贈与をしたので、残りの財産は慈善団体へ全額寄付したいと願う場合もあります。
どのケースも相続人である遺族が了解するように、遺言書に理由を記しておくことが賢明です。
他の相続人とは不仲
自分の財産を相続させたくない相続人がいる場合も、一人に全財産を相続させることがあります。
たとえば以下のケースが挙げられます。
・子どもが非行にはしり、借金取りがきたり警察のお世話になったり多くの迷惑をかけられた ・元気な時だけお金の無心にやってきて、介護が必要になったら世話を一切せず、 家にも顔を出さない子どもがいる ・前妻の子どもがいるが音信不通で何の連絡も取っていない |
以上のようなケースも、相続人として一人だけ残った愛情深い人にすべての財産を相続させることがあります。
「この相続人にだけは遺産をやりたくない」という事態もあるものです。
相続させたくない相続人がいる場合は、遺産目当てでやってきても揉めないように廃除という方法を取れます。
相続廃除とは、相続人から遺留分も含めて相続権を完全に剥奪することです。
遺言で残したい本人つまり被相続人本人のみが行えます。
被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。(民法892条) |
廃除は相当する条件があてはまり、家庭裁判所も認め手続きをした時に有効となります。
廃除されるとは余程のことなので、そこまで心象を悪くしてしまわないように快い関係を築いておきたいものですね。
遺言書で一人に相続させる場合に予想されるトラブル
・遺言書があっても、その通りに遺産分割されないことがある ・遺言の無効を訴えられることがある ・遺留分侵害請求をされて遺産の一部が減ることがある |
遺言書があっても、その通りに遺産分割されないことがある
予想されるトラブルとして、法定相続人また受遺者全員が納得すれば、遺言書通りに遺産分割をせずに遺産分割協議による分割方法が優先されてしまうことがあります。
また遺言書に納得がいかない相続人がいて遺産分割協議でも合意が得られない時、裁判所に「遺産分割調停」が申し立てられます。
遺産分割調停で、調停委員が相続人間に入り、遺産分割の方法について納得がいくような方法を探して提案します。
それでも同意に至らない場合は、自動的に「遺産分割審判」へ移行することになります。
遺産分割審判では、裁判所が相続人たちの主張を公平に聞き取り、「審判」によって遺産分割の方法の結論を示します。
そして審判が確定すると、相続人たちは審判内容に拘束されることになり、その通りに遺産分割を行分ければなりません。
<参考サイト:裁判所・遺産分割調停>
いずれにせよ、一人に全財産を相続させる遺言は無効になってしまいます。
それで遺言を書く際には、法定相続人や受遺者の了解を取れるような内容にしておきましょう。
せっかくの遺言書も無駄になってしまいますから注意してください。
遺言の無効を訴えられることがある
次に予想されるトラブルとして、他の相続人が遺言書の内容に納得せず、遺言無効を主張される可能性があります。
遺言書は法律で規定された書式や書き方があり、それを守らないと無効になってしまいます。
よくあるのが、日付のところで厳密な〇月〇日とはせずに、〇月吉日としてしまい無効になってしまうケースもあります。
そうした事態を避けるため、費用はかかりますが専門家の助けをかりて作成するのが最善といえるでしょう。
特に公正証書遺言で作成しておくなら無効の主張がされにくいといえます。(民法969条)
しかし前述したように、遺言を無効にしたいと思う相続人がいる場合、書式通りでも家庭裁判所で調停・訴訟ができ遺言書の内容を無効にできる場合がありました。
そうなると法定相続分通りに遺産が分割される可能性が高まり、特定の一人の人や団体に遺産を受け取ってもらいたい遺言者の遺志が叶えられないことになってしまいます。
遺留分侵害請求をされる場合がある
予想されるトラブルで大きな点として遺留分の問題があります。
すべての相続人には法律で定められた遺留分の権利があり、遺言書でもその権利を奪えません。(民法1046条1項)
したがって遺留分の金額を受け取れなかった場合に、相続した一人に、遺留分を侵害されたとして侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます。
もし請求された場合は、現金で支払わなくてはなりません。
【一人に全財産を相続させたい時に遺言書以外にできる生前対策として】
・相続人が遺留分侵害額請求に対応できるように現金を多めに用意しておきます。
生命保険の受取人に指定しておくなどで対処できるでしょう。
生命保険金は相続税の対象にならないからです。
・話し合うことで生前に他の相続人に遺留分を放棄してもらえます。
被相続人の生前に遺留分放棄をさせるには、家庭裁判所に申立てをして、許可をもらう必要があります(民法1049条)
生前に遺留分の放棄を話し合うには、それ相当の覚悟が必要ですが、遺言執行のさいに揉めないためには重要なことといえるでしょう。
一人にすべて相続させる遺言書の書き方
記載するべき6つのポイント
①遺産の内容 ②「〇〇に全財産を相続させる」旨 このとき、「誰に」という部分は明確に特定できるようにしましょう。 立場、氏名、生年月日を書いておくのがおすすめです。 ③どうして〇〇に全財産を相続させたいのか ④遺言執行者の選定 ⑤作成した日付(〇月吉日はNGです) ⑥署名押印 |
<引用サイト:相続弁護士相談>
他の相続人に納得してもらいやすくするため理由を説明した付言事項で気持ちを伝えおくことは大切です。
付言事項で納得してもらい易くする
遺言で一人に全財産を相続させる内容の遺言書は簡単ですみます。
ですが遺言書には法的な文言だけを書いておくだけなら相続人の心象を悪くすることがあります。
それで自分の気持ちを伝えるために「付言事項」も記したほうがよいでしょう。
たとえば「他の相続人には生前にたくさんの支援をしてきたので、最後まで世話や介護してくれた長男には残りの全ての遺産を相続させたい」といった気持ちなどを記せます。
すなわち、付言とは、法的な効力はないですが、相続人に対して言い残したいことやメッセージ「手紙」のようなものといえます。
同じように法的効力がないのですが、ビデオメッセージなどで素直な気持ちを訴えるようにしても説得力があっていいでしょう。
そうすれば他の相続人の不満や怒りも和らげられるかもしれません。
とにかく生前のありのままの気持ちを残しておきましょう。
そうすれば、他の相続人が遺産分割の内容に納得してくれやすくなる可能性は高いです。
公正証書遺言で書く
前述しましたが、不備となって無効になることが大いに避けられますね。
公証役場で作成してもらうには、2人以上の立ち合いが必要となります。
これは本人が誰かに騙されたり脅されたりして書かされていないことや、判断能力も十分備わっていることを確認することになるからです。
立ち合いには知人や友人にもお願いできますが、いない場合は一人につき1万円の謝礼を払って専門家にお願いできるでしょう。
こうして厳密な規定のある遺言書が有効なものにしておくことをおすすめします。
まとめ
遺言で一人に全財産を相続させるのは可能でしたし、そうしたいと願ういくつかのケースがありました。
もっともなケースもありますが、どんなケースであっても遺言が首尾よく実行されるために幾つかの乗り越えなければならない壁もあります。
法律に定められた書式の遺言書で無効が主張されないようにすることはもちろんですが、一番の大きな壁となるのは、他に相続人がいる場合は、理由を説明し納得してもらうことでしょう。
それが得られない場合は、裁判所で争われる事態にもなりかねません。
いろんな場合を想定して、生前にしておける対処策などを考慮しながら、効力のある遺言書を書いて自分の築いた財産を意志どおりの結果となるといいですね。
そのためにこの記事がお役に立てることを願ってやみません。