遺言書を開封してしまった!家庭裁判所の検認で無効を回避しよう
「祖父の死後、遺品整理をしていたら直筆の遺言書が出てきました。気になって開けてしまいましたが、ネットを見ると開封厳禁だと知ってとても心配です。祖父の遺言書は無効になるのでしょうか。」
このように、親族の遺言書を知らずに開封してしまい、不安な日々を過ごしている人もいるかもしれません。
法律上、遺言書の開封前に家庭裁判所へ持参して「検認」という手続きを踏まない限り、相続手続きが行えないばかりか法律違反になる恐れもあるのです。
本章では、遺言書を開封してしまった場合の対処法をはじめ、相続手続きを行うために重要な「検認」手続きについて解説しています。
また、家庭裁判所による「遺言書の開封の流れ」もわかるので、ぜひ最後までご覧ください。
遺言書の開封は無効の恐れも!
親族が遺した遺言書…すぐに中身を確認したい気持ちになるでしょう。
しかし、たとえ遺言書を見つけても、勝手に開封をしてはならない「法律上の決まり」があるのです。
遺言書をすでに開けてしまった場合も同様に、速やかに家庭裁判所に提出する必要があります。
ここでは遺言書の検認が必要な理由と、怠った場合の罰則を把握しましょう。
参考元:裁判所
封印された遺言書は絶対に開封してはならない
封筒の封じ目に「遺言者の著名」と「押印」がなされた遺言書は開封してはなりません。
以下は、東京高等裁判所(平成18年10月25日)による「自筆証書遺言書」に関わる判決によるものです。
遺言書と封筒を一体としてみることにより方式の不備を救済することができるのは,遺言書に署名はあるが押印はなく封筒の封じ目に押印がある場合に限られ(最高裁平成6年6月24日第2小法廷判決・集民172号733頁参照),本件文書のように署名すらない場合にまで方式の不備を救済することはできない。
引用元:東京高等裁判所(平成18年10月25日)
この例は、封書に「著名・押印」のある遺言書を開封後に家庭裁判所に提出したところ、「遺言書自体に署名・押印がなされていない状態」が判明しました。
こうした「形式不備」の遺言書は、封書と遺言書本文を「一体」とは見なされず、遺言書自体が無効となった判例です。
開封してしまったら、そのまま家庭裁判所に提出を!
封印された遺言書を知らずに開封してしまっても、遺言書自体が無効になる訳ではありません。
東京高等裁判所(平成18年10月25日)による「遺言書の効力」では次のように明記されています。
前記前提事実のとおり,本件封筒には,表に「遺言書」と記載され,裏面に亡Aの氏名が記載され,「○○」名(注:亡Aの氏)下の印影が顕出されており,亡Aが本件封筒に署名して押印し,かつ,本件文書と本件封筒が一体のものとして作成されたと認めることができるのであれば,本件遺言は,亡Aの自筆証書遺言として有効なものと認め得る余地がある。
引用元:東京高等裁判所(平成18年10月25日)
判例からも、遺言書を開封して「無効」とならない場合は、封書内の遺言書が形式不備などの問題がない場合です。
ただし、遺言書を開封する前に、事前に形式不備の有無を察知するのは不可能です。 したがって、遺言書を見つけても決して開封せず、もしも開封してしまったら速やかに家庭裁判所に提出し、裁判所の指示を仰いでください。 |
検認とは?遺言書は家庭裁判所で開封しよう!
遺言書を見つけたら、家庭裁判所で開封する「検認」という手続きを踏むことが法律で義務付けられています。(民法第1004条3項)
具体的には、家庭裁判所で相続人や代理人の立ち会いのもとで遺言書を開け、遺言内容を確認するための法的手続きになります。
ここでは、「検認」とは何かについてわかりやすく説明します。
検認とは遺言書の存在を確認する手続き
検認について、裁判所は次のように明言しています。
「検認」とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして,遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。
引用元:裁判所ホームページ
遺言書の開封は、微塵の偏見や偽りもない「公平」な判断のもとで開封を行う必要があります。
そこで、遺言書自体が「本当に遺言者が作成」したものかどうか、あるいは偽造や変造がないかを確認する手続きが「検認」です。
したがって、遺言書が法的に有効かどうか、あるいは無効かどうかを把握する手続きではありません。
公正証書遺言以外の場合、預貯金の相続や相続登記などの手続きにも「検認が確認できる書類」が不可欠です。(※自筆証書遺言書で法務局の遺言保管制度を除きます) |
参考元:裁判所
参考元:一般社団法人 全国銀行協会
検認手続きを怠った開封は法律違反
遺言書の開封は、家庭裁判所による検認手続きを必ず行う必要があります。
もっとも、封印のある遺言書の場合は家庭裁判所にて、相続人や代理人の立ち合いのなかで開封を行います。(民法第1004条3項)
検認手続きを怠った状態での遺言書の開封は法律違反となり、50,000円以下の過料に罰せられるため注意が必要です。(民法第1005条)
また、遺言書を開封して「書き換え」たり「破棄した」場合、相続人としての権利は失います。(民法第891条)
検認は、遺言書の存在や各相続人が遺言内容を把握するためにも大変重要な手続きです。 そのため、遺言書の開封は全相続人が立ち合うなかで実施されているのです。 こうした「立ち会い」を、家庭裁判所は全ての相続人に対して通知を行いますが、事情によって参加できない人もいるでしょう。 検認の立ち会いはあくまでも個々の判断によるとされており、全相続人が集まらなくても検認作業は行われます。 ただし、検認の申立人や代理人は必ず立ち会いに参加する必要があるので心得ましょう。 |
参考元:裁判所
封印のない遺言書やメモ書きされた遺言書はどうなる?
封筒に入ったまま封印されてない遺言書や、広告の裏にメモ書きされたような遺言書も、家庭裁判所での検認は必要です。
メモ書きであっても要件を満たしていれば無効にならない場合もあるため安易に処分せず、まずは家庭裁判所の指示を仰いでください。
ただし、紙切れに書いたような遺言や不明朗な遺言内容の場合、正しい遺言書として扱われない恐れもあるので注意しましょう。
参考元:神奈川県弁護士会
開封前に検認必須の遺言種類とは?
遺言書には次の3種類がありますが、検認手続きが不要の遺言種類も存在します。
自筆証書遺言書 ・遺言者自身が保管していた場合 ・家族や友人・知人に預けていた場合など | 検認手続きが必要 |
秘密証書遺言書 | 検認手続きが必要 |
公正証書遺言書 | 検認手続きは不要 |
遺言書の種類が「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」の場合には検認手続きが必要です。
なお、自筆証書遺言であっても、法務局の自筆証書遺言制度を利用している場合は検認手続きは不要になります。
ここでは、それぞれの遺言書の特徴を確認しましょう。
自筆証書遺言書の特徴【検認手続きが必要】
自筆証書遺言書とは、遺言全文を遺言者自身が直筆で書いた遺言書をいいます。(※財産目録のみパソコン作成が可能です。)
作成後は遺言者自ら保管していたり、家族や知人に預けるケースもあります。
自筆証書遺言の作成は、いつでも手軽に書けるメリットがありますが、大変細やかな作成ルールも存在します。
具体的には日付や署名・押印などの記載事項の漏れや些細な形式不備、あるいは内容の不明瞭などで遺言書が無効になる場合もあります。
また、作成後の何者かによる偽造や変造の恐れも歪めず、場合によっては相続争いが生じる可能性もあります。
自筆証書遺言は、公正役場で公証人が作成する「公正証書遺言」とは異なり、法律上正しい遺言書かどうかその有効性も不明状態です。 したがって、自筆証書遺言書が見つかったら(たとえメモ書きであっても)開封せずに家庭裁判所に提出して検認を行う必要があるのです。 ただし、自筆証書遺言書が法務局で保管されている場合、厳格に保存されているため検認の必要はありません。 |
なお、裁判所による検認は、あくまでも「遺言書の書き変えや偽造」を未然に防止するための手続きのため、遺言の有効性を確定するものではありません。
参考元:法務局
秘密証書遺言の特徴【検認手続きが必要】
秘密証書遺言は文字通り「相続開始まで遺言内容は秘密」にできる遺言書をいいます。
秘密証書遺言の作成は公証役場で行い、公証人と証人2人が「遺言書の存在(封をした状態の遺言書)」を確認してくれます。
つまり、遺言内容の確認はできないため、遺言書が法的に則った形式で作成されているかどうかがわかりません。(民法第968条)
また、秘密証書遺言も自筆証書遺言と同様に「公証人による遺言確認」がなされないため、家庭裁判所での検認手続きが重要です。
秘密証書遺言の原本は遺言者自身が保管するため、年月の経過とともに遺言書の管理が厳しくなる場合もあります。 相続人側としては、秘密証書遺言の存在を最後まで知らないケースもあり、せっかく書いた遺言が発見されないリスクも歪めません。 たとえ発見されても、財産分与の書き間違えや内容不備のため、相続人同士のトラブルを招く恐れもでてきます。 したがって、秘密証書遺言の作成にも、行政書士などの専門家によるアドバイスが不可欠です。 |
公正証書遺言の特徴【検認手続きは不要】
公正証書遺言の作成は公証役場で、「公証人」という法律の専門家が携わり、遺言者や証人2人が確認します。
作成した公正証書遺言の原本は、公証人の管理のもと公証役場で保管されるので、改ざんや紛失などの危険はありません。
公正証書遺言の作成は、非常に厳しい手続きを行うと伴に公証人が手掛けてくれる手続きです。
よって、法的効力を持ち合わせているため安心して遺言作成を行えます。
家庭裁判所による検認手続きは不要となり、相続開始とともに手続きが進められます。
公正証書遺言の原本は公証役場に保存されており、自宅で見つかった公正証書遺言は「正本あるいは謄本(遺言公正証書)」になります。 もしも公正証書遺言以外の遺言書が見つかった場合、自筆証書遺言書あるいは秘密証書遺言書のいずれかとなります。 その場合は決して開封せず、家庭裁判所にて検認手続きを行いましょう。 |
参考元:参考元:日本公証人連合会
こちらの記事では「公証役場で作成する遺言(公正証書遺言)は自筆証書遺言と何が違うのか」を詳しく説明しております。
家庭裁判所での遺言書の正しい開封(検認)の流れ
遺言書を発見したら開封せずに、まずは「家庭裁判所」で検認手続きを行います。
ここでは、遺言書の正しい開封(検認)方法の流れをみてみましょう。
①検認を申立てる人を確定する
まずは家庭裁判所に検認を申立てる人を確定させます。
検認の申立人は、遺言書を見つけた人(相続人)あるいは遺言書を保管している人が行います。
②全ての法定相続人の連絡先を調べる
検認の際、家庭裁判所から全ての法定相続人宛に「期日通知(遺言書の確認を行う日時の通知)」が送付されます。
検認手続きの前に、申立人は遺言者(被相続人)の相続関係を証明するための「全ての戸籍謄本」を取り寄せて、法定相続人を確定させる必要があります。
なお、全相続人のもとに家庭裁判所から通知が届きますが、裁判所からの連絡に心情的にも不安に陥ることでしょう。
こうした配慮を含めて、まずは遺言書を見つけた人が「全ての相続人」に対し、遺言書が見つかったことを連絡すると安心です。
③検認手続きに必要な書類を準備する
遺言書の検認手続きに必要となる主な書類は次の通りです。
裁判所にある申立書1通 | 申立書は、こちら裁判所のHP(家事審判申立書)よりダウンロードができます。 |
遺言者(被相続人)の戸籍謄本 | 出生から死亡までの全ての戸籍謄本(除籍・改製原戸籍) (※戸籍謄本等の必要書類は、3ヶ月以内に発行されたものに限ります。) |
相続人全ての戸籍謄本 | 戸籍関係の書類は、こちら裁判所HP(遺言書検認)をご参考ください。) |
封印のない遺言書は、検認の申立時に「遺言書の写し」を添付します。
その他、必要に応じて資料を提出する場合があるため、(遺言者が最後にお住まいだった)住所地を管轄する家庭裁判所にご確認ください。
(※管轄する家庭裁判所はこちらからご確認できます。)
④検認に必要な費用の確認
遺言書は1通につき収入印紙分として800円が必要です。
また、家庭裁判所から連絡される場合の郵便切手代も必要となります。
検認に必要な費用についても、遺言者が最後に住んでいた住所地の家庭裁判所にてご確認ください。
⑤検認申立書の作成
遺言書の検認書の記入例として、こちら裁判所のHPをご参照ください。
必要事項は、太枠の青文字(青丸)を参考にして記載します。
⑥家庭裁判所へ検認の申立手続きに出向く
申立て場所は、遺言者(被相続人)の最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所です。
申立手続後、裁判所は申立人に対して検認期日(検認が行われる日)の連絡を入れます。
検認期日は申立人や裁判所の都合が考慮され、一般的に申立から1ヶ月〜1ヶ月半後に行われているようです。
⑦検認期日の確定を全相続人に通知される
申立人と家庭裁判所との検認期日が決定すると、裁判所は相続人全員に期日確定の通知を送付します。
通知には、遺言者の検認作業があること・検認期日・裁判所所在地・当日に持参するものなどが記載されています。
なお、検認当日に必要な持ち物は次の通りです。
- 遺言書の原本(開封前)
- 家庭裁判所から送付された検認期日通知など
- 身分証明書(マイナカードや運転免許証など)
- 印鑑(認印)
- 150円分の収入印紙
(※収入印紙は検認済証明書を発行するために必要な手数料です。詳しくは管轄する家庭裁判所にお問い合わせください)
裁判所から送付される「期日確定の通知」には、出欠確認のための回答書も添付されているので、申立人以外は速やかに返送しましょう。(※出欠書の返送ができなくても罰則はありません。)
⑧検認期日、遺言書を開封される
指定された検認期日に家庭裁判所に出向きます。
検認期日には申立人の立ち会いは必須ですが、その他の相続人はご事情により参加を見合わせても問題ありません。(欠席者には後日、検認終了の通知が送付されます)
検認当日、申立人や相続人が立ち会うなかで遺言書が開封され、全相続人は遺言内容を確認します。
家庭裁判所(検認)に出向く服装に決まりはありません。 ですが「遺言関連」と「場所柄」を考えるならば、短パンやサンダル、あるいは肌の露出の多い服装などは控えたほうが無難です。 スーツや喪服を着用する必要はありませんが、清潔感のある身だしなみで向かいましょう。 |
⑧検認済証明書の交付後、手続き終了
検認後、検認済証明書が交付されて手続きは終了となります。
検認済証明書は今後、金融機関や登記申請に必要となるため、大切に保管しましょう。
検認の詳細は、こちら「遺言書の検認とは〜遺言書を見つけたら家庭裁判所へ」を合わせてご覧ください。
遺言書が開封されず無効のリスクを回避するには?
ここまで、ご親族の遺言書を開封してしまった場合の対処法を説明しましたが、逆にご自身が死亡した後も家族が困らないためにも遺言書の作成をおすすめします。
そこで、遺言書が開封されずに無効を回避するためも「公正証書遺言」を選択すると良いでしょう。
公正証書遺言を専門家に依頼するメリット
公正証書遺言書の作成でもっとも重要なポイントは、文案の作成時点で「不備なく正確に作成」できるか、あるいは「「遺言者の意思が明確に記載」できているかにかかります。
公正証書遺言を専門家(行政書士や弁護士)に依頼することで、次のようなメリットがあります。
・細やかな相談ができる ・遺言者の思いが伝わるように確実な文案を作成してもらえる ・取り寄せに面倒な必要書類を収集してもらえる ・公証役場や公証人との調整や打ち合わせをしてもらえる ・証人の立ち会いをしてもらえる ・遺言手続きの一環したサポートをしてもらえる |
その他、遺言書の作成を専門家に依頼するメリットは多岐にわたります。
遺言作成は「法律行為」のため、法律に強い専門家に依頼することが「無効」を回避する得策といえるでしょう。
こちらの記事では「遺言書作成を行政書士に相談するメリットや費用について」詳しく説明してますので合わせてご覧ください。
また「遺言書作成は公正証書によって進めたほうがいい、3つの理由」をご覧になることで、公正証書遺言が良い理由がより詳しくわかります。
遺言書を開封した無効回避のまとめ
遺言書の開封は家庭裁判所にて「検認」手続きを行う必要があり、封印がなされた遺言書の開封は認められていません。
一方、遺言書とは遺言者の意思の表れとなり、遺言者の思いが尊重されるものとなります。
そのため、万が一遺言書を開封しても、自身や他の相続人の「相続権」はなくならず、遺言自体も無効にはなりません。(民法第891条)
もしも遺言書を開けてしまったら、まずは遺言者(被相続人)の管轄する家庭裁判所にそのまま提出し、検認手続きをお願いしましょう。
他方、家庭裁判所での検認は、遺言書の形式不備の調査や内容を明確さを確認するものとなり、遺言書の無効・有効を定める手続きではないので注意なさってください。