補充遺言の書き方|予備的遺言の文例と注意点を行政書士が解説
補充遺言とは、遺言で財産を受け取る人が遺言者より先に亡くなった場合に備え、「次に受け取る人」をあらかじめ指定しておく条項です(法律上の通称は「予備的遺言」)。入れておかないと、受取人が先に亡くなった部分の遺言は効力を失い、結局、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)に戻ってしまいます。
書き方の基本は、①誰に遺すか、②その人が先に亡くなったら、③誰に遺すかの3点を順に書くことです。
当事務所は終活専門の行政書士事務所として7年、公正証書遺言の作成から、証人の手配、遺言執行者の就任まで一貫して担当してきました。本記事では、その実務経験をもとに、次の内容を解説します。
- そのまま使える補充遺言の文例(配偶者→子、姉妹→甥など)
- 失敗しやすいポイントと、補充遺言でできないこと
- 公正証書と自筆証書、どちらで作るべきか
- すでに遺言を書いた方が、補充遺言を加える方法
補充遺言とは?書かないとどうなるのか
結論から言うと、補充遺言を入れていない遺言は、受取人が先に亡くなった時点で、その部分が使えなくなります。まずは仕組みを確認しましょう。
補充遺言(予備的遺言)とは
補充遺言とは、遺言の受取人が遺言者より先に亡くなった場合などに備えて、第二の受取人を指定しておく条項です。遺言の「予備の保険」と考えると分かりやすいでしょう。
たとえば、次のような書き方になります。
遺言者は、全財産を妻に相続させる。ただし、妻が遺言者の死亡以前に死亡したときは、全財産を長男に相続させる。
後半の「ただし〜」の部分が補充遺言です。
受取人が先に亡くなると、遺言はどうなるのか
その部分の遺言は効力を失い、財産は相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で分けることになります。
- 遺贈(遺言による贈与)の場合:受取人が遺言者より先に亡くなると、遺贈は効力を生じません(民法994条)。
- 「相続させる」遺言の場合:最高裁判所の判例(平成23年2月22日)で、原則として効力を生じないとされています。ただし、遺言の他の記載や作成当時の事情から、遺言者が「代わりの人に遺したい」と考えていたと認められる特段の事情があれば、別の判断になります。
たとえば、夫が「妻に全財産を相続させる」とだけ書き、妻が先に亡くなった場合は、相続人である子ども全員で遺産分割協議をすることになります。受取人が兄弟姉妹で、疎遠なきょうだいがいる場合は、そのきょうだいも含めた話し合いが必要です。誰かの署名や押印が得られず、預貯金の解約も不動産の名義変更も進まない「塩漬け」状態になるおそれもあります。
当事務所の実務では、受取人が先に亡くなるとは思っていなくても、何があるかはわかりません。病状が悪化して、急に遺言の作り直しが必要になるケースもあります。
補充遺言が特に必要な人
次に当てはまる方は、補充遺言を入れておくことをおすすめします。
- 高齢の配偶者に財産を遺す方:配偶者が先に亡くなる可能性を、現実的に考えておく必要があるためです。
- 兄弟姉妹や甥・姪に遺す方(子どもがいない夫婦、おひとりさまなど):先に亡くなった場合に、疎遠なきょうだいを含む協議になりやすいためです。関連記事:遺言で兄弟一人だけに全財産を相続させる方法
- 受取人が病気や持病を抱えている方
- 子や孫に、遺す人まで具体的に指定したい方
補充遺言をご提案すると、「確かに必要ですね」と納得して入れる方が、当事務所では多くいらっしゃいます。裏返せば、多くの方は、必要性を知らないだけなのです。
補充遺言の書き方|基本の型と文例
結論から言うと、補充遺言は**「主となる指定」→「条件」→「予備の受取人」の順に、3つの文でつなぐ**だけで書けます。ここでは基本の型と、ケース別の文例を紹介します。
基本の型(3つの要素)
| 順番 | 要素 | 書く内容 | 例 |
|---|---|---|---|
| ① | 主となる指定 | 誰に、何を遺すか | 全財産を妻〇〇に相続させる |
| ② | 条件 | どんな場合に補充が働くか | 妻が遺言者の死亡以前に死亡したとき |
| ③ | 予備の受取人 | 次に誰に遺すか | 長男〇〇に相続させる |
「死亡以前」と書くのがポイントです。「先に亡くなったとき」ではなく「死亡以前に死亡したとき」とすると、事故などで同時に亡くなった場合も含められます。
また、受取人は氏名だけでなく、続柄と生年月日も書いて特定します。同姓同名の人がいても、誰を指すか明確にするためです。
ケース別の文例と、当事務所の事例
文例は一般的な形です。実際に使うときは、財産の内容や家族関係に合わせた調整が必要なので、作成前に専門家へご確認ください。
【文例A】配偶者に遺し、先に亡くなったら子に遺す(最も多いパターン)
第1条 遺言者は、遺言者の有する全財産を、妻〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。 第2条 前条の妻〇〇が遺言者の死亡以前に死亡したときは、前条記載の財産を、長男〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
当事務所のご相談でも、「配偶者→子」の補充の指定が最も多いパターンです。
【文例B】相続人ではない甥・姪に遺す場合(姉妹→甥など)
第2条 前条の妹〇〇が遺言者の死亡以前に死亡したときは、前条記載の財産を、甥〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に遺贈する。
相続人ではない人に遺す場合は、「相続させる」ではなく「遺贈する」と書くのが一般的です。「相続させる」は、法律上、相続人に対して使う言い方だからです。
【相談事例】80代姉妹が、補充遺言を入れた公正証書遺言を作成したケース
※個人情報保護のため、内容は一部改変しています。
姉が入院することになり、「介護で支えてくれた妹に財産を遺したい」と、妹さんが当事務所の無料相談会にお越しになりました。他のきょうだいとは疎遠で、財産は共有名義のマンションと預貯金です。
作成した公正証書遺言には、妹さんに財産を遺す内容に加えて、「妹さんが先に亡くなった場合は、甥に遺す」という補充遺言を入れました。高齢のお二人だからこそ、受取人が先に亡くなる場合まで備えておく必要があるためです。遺言執行者には、当事務所の行政書士が就任することになり、現在もお二人はお元気に過ごされています。
条件の書き分け|「先に亡くなった場合」以外も考える
補充が働く条件は、「先に亡くなった場合」だけとは限りません。次の2つも検討しましょう。
- 同時に亡くなった場合:「死亡以前」と書けば含められます(上記)。
- 受取人が受け取りを辞退した場合:遺贈の受取人は、遺言者の死亡後に、遺贈を放棄できます(民法986条)。辞退に備えた条項を入れるかどうかは、財産の内容や家族関係で変わるため、専門家と相談して決めます。
遺言執行者の補充も忘れずに
遺言執行者(遺言の内容を実際に実行する人)も、予備の人を指定しておくと安心です。指定した人が、病気や辞退などで就任できない場合に備えるためです。
当事務所では、公証役場での証人2名の立会いから、遺言執行者への就任まで、一貫して対応しています。
書き方のルールと、失敗しやすいポイント
結論から言うと、補充遺言の失敗の多くは、**「方式のミス」「人物の特定不足」「補充先が1人だけ」**の3つに集約されます。
自筆証書遺言で守るべき要件
自筆証書遺言(自分で書く遺言)は、次のすべてを満たさないと無効になるおそれがあります(民法968条)。補充遺言の部分も同じです。
- 全文を自分で手書きする(代筆やパソコン作成は不可)
- 日付を書く(「令和〇年〇月吉日」は日付が特定できず無効になるため、年月日をすべて書く)
- 氏名を自分で書く
- 押印する
例外として、財産目録(財産の一覧)だけは、パソコン作成や通帳のコピーでも構いません。その場合は、すべてのページに署名と押印が必要です。
よくある失敗例
① 受取人の特定が不十分 氏名だけで、続柄や生年月日がないと、同姓同名の人がいる場合などに、誰を指すか争いになるおそれがあります。
② 条件の書き方が曖昧 「万一のときは」といった書き方では、どんな場合に補充が働くのか分かりません。「遺言者の死亡以前に死亡したとき」と、条件をはっきり書きましょう。
③ 補充先が1人だけで、その人も先に亡くなる 補充先の人も先に亡くなると、結局、遺産分割協議に戻ります。補充先をさらに指定する(第3順位を設ける)ことは、法律上できます。人数の上限はありません。
④ 遺留分への配慮がない 補充先が誰であっても、遺留分(配偶者・子・親に認められた最低限の取り分)を持つ相続人がいれば、金銭の支払いを請求される可能性があります。
⑤ 相続人でない人に「相続させる」と書く 前述のとおり、相続人でない甥・姪などには「遺贈する」と書くのが一般的です。
補充遺言でできないこと
補充遺言は、「受取人が先に亡くなった場合の、次の受取人」を指定するものです。「受取人が受け取った後に、その人が亡くなったら、さらに次は誰に」と、何段階も先まで指定すること(後継ぎ遺贈)は、有効性に争いがあり、実務では避けるのが一般的です。
「孫の代まで決めておきたい」といったご希望がある場合は、家族信託(財産の管理を家族に託す仕組み)のうち、受益者(利益を受ける人)を連続して指定できる方法が、選択肢になることがあります。この場合は、遺言とは別の契約になるので、専門家へのご相談をおすすめします。
公正証書で作る?自筆で作る?補充遺言の作成方法
結論から言うと、補充遺言を入れるなら、公正証書遺言が安心です。条件や人物の書き漏れを、作成の段階で防げるためです。
補充遺言を入れるなら、公正証書が安心な理由
公正証書遺言とは、公証人(法律の専門家で、法務大臣が任命する公務員)が作成する遺言です。自筆証書遺言と比べて、次の違いがあります。
| 項目 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
|---|---|---|
| 文案の確認 | 公証人が確認する | 自分で確認する |
| 方式不備による無効 | 起こりにくい | 起こりやすい |
| 保管 | 原本を公証役場が保管 | 自宅保管(法務局の保管制度も利用可) |
| 検認(家庭裁判所での確認手続き) | 不要 | 自宅保管は必要。法務局の保管制度を使えば不要 |
| 証人 | 2名が必要 | 不要 |
補充遺言は、文章が複雑になりやすく、条件や人物の特定を一つ誤ると、狙いどおりに働きません。文案を専門家と公証人が確認する公正証書遺言なら、そのリスクを小さくできます。
なお、公正証書遺言でも、遺言能力(遺言の内容を理解し、判断できる力)が争われて無効とされた例はあります。「絶対に安全」とは言えないため、高齢の方や体調に不安がある方は、診断書などの準備も検討しましょう。
費用・必要書類・期間の目安
費用:公証人の手数料は、遺言で遺す財産の価額に応じて、法令で決まっています。補充の条項を入れたことで手数料が変わるかどうかは、公証役場や依頼する専門家にご確認ください。専門家に依頼する場合は、別途、報酬がかかります。
必要書類(一般的なもの):
- 遺言者の印鑑証明書(発行から3か月以内のもの)
- 遺言者と相続人の続柄がわかる戸籍謄本
- 相続人以外に遺す場合は、その人の住民票
- 不動産がある場合は、登記事項証明書と固定資産評価証明書(または納税通知書)
- 預貯金がある場合は、通帳の写しなど
書類は、公証役場や状況によって異なることがあるため、作成前に確認が必要です。
専門家に依頼するメリットと相談の流れ
専門家に依頼する最大のメリットは、文案づくりから、証人の手配、遺言執行者の就任までを一度に任せられることです。公証役場では、遺言者本人と証人2名が立ち会います。
当事務所の相談会経由の事例では、遺言で財産を受け取る妹さんは、公証役場に立ち会えず、外でお待ちいただきました。受け取る人が作成に関わらない形にすることで、後から「無理に書かせたのではないか」と疑われるリスクを減らせます。
相談の流れは、次のとおりです。
- 無料相談会で、家族構成と財産、ご希望を整理する
- 補充の指定を含めた文案を作成する
- 公証人と文案を調整し、必要書類をそろえる
- 公証役場で、証人2名の立会いのもと作成する
- 遺言執行者に就任する(相続開始後の手続きを担当)
すでに遺言を書いた方、状況が変わった方へ
結論から言うと、すでに書いた遺言に補充遺言を足したいときは、新しい遺言を作り直すのが安全です。受取人の体調や家族の状況が変わったときも、見直しの対象になります。
補充遺言を後から追加するには
新しい遺言を作り直すのが基本です。前の遺言と新しい遺言の内容が食い違う部分は、新しい遺言が優先されます(民法1023条)。
- 公正証書遺言の場合:公証役場で、新しい公正証書遺言を作成します。前の遺言を撤回する旨も書いておくと、内容がはっきりします。
- 自筆証書遺言の場合:書き足しや訂正をすることもできますが、決められた方式(変更した場所を示し、変更した旨を付記して署名し、変更場所に押印する)を守らないと、変更が無効になります(民法968条3項)。補充遺言は、書き足すより、全文を書き直すほうが確実です。
当事務所の実務では、受取人の病状が悪化して、急に作り直しが必要になるケースがあります。体調が悪化してからでは、遺言の作成自体が難しくなることもあるため、最初から補充遺言を入れて、作り直しが必要にならないようにしておくのが理想です。
見直しのタイミング
次のような変化があったときは、遺言の見直しを検討しましょう。
- 受取人が入院した、または持病が悪化した
- 受取人や補充先の人が、高齢になった
- 受取人や補充先の人との関係が変わった(疎遠になった、同居を始めたなど)
- 家族が増えた・減った(結婚、出産、死別など)
- 財産の内容が変わった(不動産の売却、購入、相続など)
- 遺言執行者に指定した人が、亡くなった、または引き受けられなくなった
受取人が「遺言者の死亡後」に亡くなった場合は?
遺言者が亡くなった後に、受取人が亡くなった場合は、補充遺言の対象ではありません。 遺言の効力はすでに生じていて、受取人はいったん財産を取得しているためです。
その場合、受取人の財産は、受取人自身の相続(数次相続)として、その相続人に引き継がれます。補充遺言が備えるのは、「遺言者より先に」受取人が亡くなる場合です。
補充遺言のよくある質問(FAQ)とまとめ
よくある質問
Q. 補充遺言は、必ず入れなければいけませんか? A. 法律上の義務ではありません。ただし、入れていないと、受取人が先に亡くなったときに、その部分が遺産分割協議に戻ります。受取人が高齢の方や、疎遠な親族がいる方は、入れておくことをおすすめします。
Q. 予備の受取人は、何人まで指定できますか? A. 法律上、人数の上限はありません。第2順位、第3順位と指定することもできます。ただし、複雑になりすぎると、解釈が分かれる原因になるため、公証人や専門家と相談して決めましょう。
Q. 予備の受取人の同意は必要ですか? A. 遺言は遺言者が一人で行うものなので、同意は不要です。伝えるかどうかは自由です。ただし、遺贈の受取人は、遺言者の死亡後に放棄することもできます。
Q. 付言事項(遺言に添える気持ちのメッセージ)と、補充遺言は違いますか? A. 違います。付言事項には、法的な拘束力がありません。補充遺言は、遺言の本文として、法的な効力を持ちます。
Q. 補充の受取人にも、遺留分はありますか? A. 補充の受取人自身に遺留分があるかどうかは、その人が遺言者の配偶者・子・親にあたるかで決まります。また、補充先が誰であっても、遺留分を持つ相続人がいれば、その人から金銭の請求を受ける可能性があります。
Q. 自筆証書遺言と公正証書遺言で、書き方は違いますか? A. 補充遺言の書き方(3つの要素)は同じです。ただし、自筆は方式を守らないと無効になるおそれがあります。公正証書は、公証人が文案を確認します。
まとめ|受取人が先に亡くなる「もしも」に備える
- 補充遺言とは、受取人が先に亡くなった場合に備え、次の受取人を指定しておく条項です。
- 書き方は、①誰に遺すか、②先に亡くなったら、③誰に遺すかの順に書きます。
- 条件は「遺言者の死亡以前に死亡したとき」と書き、受取人は氏名・続柄・生年月日で特定します。
- 相続人でない人に遺す場合は、「相続させる」ではなく「遺贈する」と書くのが一般的です。
- 補充遺言を入れるなら、公正証書遺言が安心です。
【監修者コメント】 「先に亡くなることはないだろう」と思っていても、何が起こるかはわかりません。補充遺言は、遺言の作り直しという手間とリスクを減らすための備えです。作り直しが必要にならないよう、入念に準備をしたうえで作成しましょう。
補充遺言を入れた遺言の作成を検討中の方は、ぜひ当事務所の無料相談会をご利用ください。文案づくりから、公証役場での立会い、遺言執行者の就任まで、一貫してご相談いただけます。


