【相続時精算課税制度】とは?為になる税金のアレコレ
今、日本は高齢化により高齢世代に資産が偏在しています。そのうえ、資産の相続人が60歳以上の高齢者となる『老々相続』にシフトしている傾向が強く、若年世代への資産移転が進みづらい状況が続き、問題視されています。
まず、【相続時精算課税制度】とは一体何なのか、理解したうえで制度の利用を検討した方が良いでしょう。
1.【相続時精算課税制度】とは?
【相続時精算課税制度】とは、簡単に言うと、相続税と贈与税をまとめて、相続税のかかるタイミングで課税されるように先送りにできる制度です。
受贈者と贈与者の制限は以下の通りです。
贈与者 | 贈与した年の1月1日時点で60歳以上 |
受贈者 | 贈与者の直系卑属の推定相続人または孫。且つ、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上 |
一見、先送りであれば特にメリットはないのでは?と思われるでしょう。この制度は、メリットがある人とそうでない人に分かれます。
また、制度の利用にはさまざまな規定や制約があるため、自分自身にメリットがあるかしっかり把握したうえで利用しましょう。
因みに、【相続時精算課税制度】は贈与者毎に適用するかを選択できます。例えばAさんが父母両方からの贈与に対してこの制度を選択した場合、合計5,000万円まで、贈与時点では非課税とすることができます。
また、父からの贈与はこの制度を適用し、母からの贈与は適用しないなど使い分けが可能です。
贈与税の非課税額は2,500万円まで
【相続時精算課税制度】を利用した生前贈与の贈与税の非課税額は2,500万円までです。この金額を超えると贈与税が課税されるため、注意が必要です。
2,500万円を超えると超過金額に対して20%の贈与税が課税されるので注意が必要です。また、この贈与税については、相続時に相続税から控除される流れとなります。
2.【相続時精算課税制度】のメリット2つ
【相続時精算課税制度】は誰にでもメリットを感じる制度ではありません。どんな人がメリットを享受することができるのでしょうか。
相続税が0円または少額となる人
【相続時精算課税制度】を利用した方がお得になる人は、『相続税が0円の範囲の財産でありながら110万円以上の贈与が必要な事情を抱えた人』です。少額の相続税が発生する人にもメリットのある制度です。
大事な注意点は、
- 不動産以外の財産で、【登録免許税】【不動産取得税】の影響がないものを贈与する
- 贈与税申告を忘れない
です。
賃貸物件を保有している人
賃貸物件を持っている人は、物件を贈与することにより、相続財産の増加をストップさせることができるので、贈与後の賃貸物件から生まれる継続した収入を手続き不要で受贈者に移すことができます。
大事な注意点は、
- 土地は贈与せず、建物のみを贈与する
ことです。
3.【相続時精算課税制度】のデメリット
【相続時精算課税制度】を利用しない方が良い人や、メリットがある人でも、適用することで一部デメリットが生じることもあるのでしっかり把握しておきましょう。
110万円非課税枠を一生使えない
【相続時精算課税制度】を適用した場合、相続税が発生するまで贈与2,500万円までの税金を先送りにするもので、届け出をだして、通常の贈与から移行させて適用とします。したがって、二度と暦年課税制度(年間110万円の非課税)へ戻すことはできません。
小規模宅地等の特例が使用不可となる
小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たした場合に、土地の評価額を大幅に減らすことができる制度です。
【相続時精算課税制度】を適用した場合、小規模宅地の減額特例を使用できなくなります。なぜなら、この減額特例は【相続もしくは遺贈】でのみ適用されるからです。
財産を相続税の計算に含めるとはいえ、実際には贈与でもらったものという認識だ、ということですね。
また、建物だけの贈与をする場合には、特例を使える可能性もあります。ケースにより異なるので、専門の税理士に確認するのが良いのでしょう。
不動産の登録免許税・不動産取得税が高い
まず、『不動産の登録免許税』は法務局へ登記をするために国に支払う税金を指します。『不動産取得税』は、取得に対して課せられる税金です。
これらは不動産の所有者が変わる際など、不動産の『固定資産税評価額』に対して必ず掛かります。相続と贈与、それぞれの場合の税率は以下の通りです。
税金 | 相続 | 贈与 |
不動産の登録免許税 | 0.4% | 2% |
不動産取得税 | なし | 3~4% |
計 | 0.4% | 5%~6% |
この表からわかるように、相続と贈与と比べた場合、10倍以上の税率の差があるのです。
また、表に記載した贈与の不動産取得税に関して、税率の軽減措置がされている時期などもあり、一概にこのパーセンテージとは限りません。記載は本来の税率としています。
この2種類の税率を考慮した上で不動産の贈与をどのようにするか決めなければ、贈与の後に後悔することも多いので注意が必要です。
贈与税申告を必ずしなければならない
相続時精算課税制度を適用した場合、贈与を受けるたびに贈与税に関する申告書を税務署へ提出する必要があります。手間になりますが、この申告を忘れると大変なことに陥るので、必ず忘れることのないよう行う必要があります。
大変なことに陥るというのは、つまり、申告漏れ分の贈与税は、特別控除の枠が残っていたとしても【特別控除の適用を受けられない】ということです。
修正申告をしても適用されないので十分に注意してください。
申告不要のケースもある
相続時精算課税の適用をして、贈与を行った年の途中で贈与者が亡くなった場合、【相続時精算課税制度】は適用されません。相続により取得したものとみなされるためです。
その場合、既に贈与された財産の評価額を相続財産に加算し、【相続税】として税率の計算を行います。
また、2024年1月1日以降は年額110万円迄なら、贈与税がかからず、相続税もかからない【年110万円の基礎控除】枠が令和4年度の税制改正により加わりました。
年額110万円以内に収まる贈与額であれば申告も不要なので使いやすくなります。
4.【相続時精算課税制度】の手続きのあれこれ
制度を受けた方がメリットが多い人は是非【相続時精算課税制度】を適用しましょう。届け出はいつでも受け付けてくれるわけではないので、注意が必要です。
その1:必要書類を集めましょう
必要書類は1〜4の4種類です。ただし、受贈者が贈与者の直系卑属である推定相続人または孫以外で、【事業承継税制の特例措置】の適用者である場合は2〜6の5種類が必要書類となります。
- 特定贈与者、受贈者の関係が記された戸籍謄本または抄本
(受贈者の氏名・生年月日、受贈者が贈与者の直系卑属である推定相続人または孫と証明するもの)
- 受贈者の戸籍の附票または住民票の写し
(受贈者が18歳となり、以後の住所を示すもの)
- 特定贈与者の住民票または戸籍の附票の写し
(氏名、生年月日、贈与者が60歳となり、以後の住所を示すもの)
- 相続時精算課税選択届出書(国税庁HPよりダウンロード可能)
- 受贈者の氏名・生年月日を記した書類
- 贈与契約書等
(受贈者が贈与者から特例対象である非上場株式等を取得したと証明する書類)
その2:相続時精算課税選択届出書の記入をしましょう
【相続時精算課税選択届出書】は、国税庁ホームページより入手可能です。ダウンロード形式になっています。
「書き方等」注意事項がついているので、参考にして、漏れのないよう記入を行ってください。
その3:税務署へ提出し手続きを完了しましょう
その1・2で用意した書類を提出する先は、受贈者の納税地を所管する税務署です。
ここで注意していただきたいのは、【いつでも申請しても良い書類ではない】ということです。
【手続き期間】
初めて贈与があった年の翌年2月1日から3月15日までの間を【贈与税申告期間】としています。この書類を提出しないと、【相続時精算課税制度】が適用されず、通常通り【贈与税】が課税されることになるので手続き期間には十分注意しましょう。
5.まとめ
【相続時精算課税制度】とは、課税を先送りにする制度なので、節税にはなりません。そして一度適用してしまうと、途中で切り替えができない点が慎重に選択をすべき点です。
また、選択した場合には2,500万円の上限を気にしつつ、範囲内での贈与が複数回に及んだ場合には申告を忘れないよう注意しましょう。
相続時に課税となりますが、贈与分財産の評価額は贈与時に決定されます。つまり、不動産などの財産の評価額が上下することが見込まれるものは、評価額の先読みができると良いでしょう。
評価額が将来上がると見込んだ財産の場合、【相続時精算課税制度】を適用させ、生前贈与をすることで税金対策になります。節税にならないとしましたが、これが例外的なケースです。
そして、令和4年の税制改正により、基礎控除110万円の枠ができたことで年額110万円迄は贈与税・相続税も掛からなくなりました。この制度の利用を前向きに検討されている方には朗報でしょう。
【贈与税】【相続税】と難しい内容のようですが、しっかりメリット・デメリットを把握して自分に合う制度の選択をすれば、損をすることなく適切な税対策を講じることができます。