相続放棄とは?放棄した方がいいケースやメリットを解説
相続放棄とは、プラスの財産だけでなく借金など負債も含め相続一切を受け継がない手続きで、家庭裁判所に申述して受理されることで効力が生じます。期限や手順を誤ると放棄が認められず負債を背負う恐れがあります。
本記事では、放棄すべきケース、メリット・デメリット、具体的な申述手順、放棄後の生活設計まで詳しく解説します。
相続放棄とは
相続放棄とは、相続人が故人のプラス財産とマイナス財産を一切受け継がないと家庭裁判所へ申述して法的に確定させる手続きです。民法915条により、自己のために相続の開始があったことを知った日から3か月以内(熟慮期間)に申述しなければならず、期間内に選択しないと単純承認とみなされ負債も相続します。
期間は相続財産の内容調査が困難な場合、利害関係人や検察官の申立てで延長可能ですが、延長は1回限りです。相続放棄が受理されると初めから相続人でなかった扱いとなり、後順位者(孫や兄弟姉妹等)へ権利義務が移転します。
また、放棄は撤回不可で、借金だけ放棄して不動産だけ取得する選択は認められません。申述書提出には収入印紙800円と郵便切手が必要で、書類は被相続人の戸籍・相続放棄申述書・住民票を添付します。
さらに、借金が多い、相続人間の対立を避けたいといった事情で利用されますが、生命保険金や死亡退職金の受取権は喪失しない場合もあるため、放棄前に権利範囲を確認し専門家へ相談することが望ましいです。
相続放棄した方がいいケースとは

相続放棄を検討する際には、いくつかの具体的なケースがあります。これから解説するケースは相続放棄した方がいいケースとしてよく言われるので、一つひとつ詳しく解説します。
マイナスの財産が多い
相続放棄を検討する際、最も重要な要素の一つが「マイナスの財産の存在」です。相続人が受け継ぐ財産には、プラスの財産だけでなく、借金や負債といったマイナスの財産も含まれます。
特に、故人が多額の借金を抱えていた場合、相続を受けることでその負債を引き継ぐことになり、経済的な負担が大きくなります。
例えば、故人が住宅ローンやクレジットカードの未払い金を残していた場合、相続人はその返済義務を負うことになります。
このような状況では、相続放棄を選択することで、負債を背負うリスクを回避することができます。相続放棄は、家庭裁判所に申述することで行われ、受理されることで効力が生じます。
また、相続放棄を行うことで、相続人自身の生活を守ることができるため、特にマイナスの財産が多い場合には、早めに判断することが重要です。相続放棄には期限があり、相続開始を知った日から3ヶ月以内に手続きを行う必要があります。
親族と遺産相続のトラブルになりたくない
相続は、遺族間での感情的な対立を引き起こすことが少なくありません。特に、遺産の分配に関して意見が分かれると、親族同士の関係が悪化することもあります。このようなトラブルを避けるために、相続放棄を選択することが有効な手段となります。
相続放棄をすることで、相続人は遺産の分配に関与せず、負債やトラブルから解放されることができます。
特に、遺産が少ない場合や、借金が多い場合には、相続放棄を選ぶことで、無用な争いを避けることができるのです。また、相続放棄をすることで、他の相続人との関係を良好に保つことができる場合もあります。
さらに、相続放棄を選択することで、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。これにより、時間や労力を節約できるだけでなく、感情的なストレスも軽減されるでしょう。相続に関するトラブルを未然に防ぐためにも、相続放棄は一つの賢明な選択肢と言えます。
相続で遺産を分散させたくない
相続において、遺産を分散させたくないと考える方は少なくありません。特に、相続人が複数いる場合、遺産が分割されることで、各相続人が受け取る財産が少なくなり、結果的に相続の意義が薄れてしまうことがあります。このような状況を避けるために、相続放棄を選択することが一つの手段となります。
相続放棄を行うことで、遺産を受け取らないことが明確になり、相続人間でのトラブルを未然に防ぐことができます。
特に、相続人同士の関係が複雑な場合や、遺産の内容が不明瞭な場合には、相続放棄が有効です。遺産を分散させたくないという理由から、相続放棄を選ぶことで、相続人が一堂に会して遺産分割協議を行う必要がなくなり、精神的な負担を軽減することができます。
また、相続放棄をすることで、相続人が負債を背負うリスクを回避できるため、経済的な安定を保つことにもつながります。
相続放棄のメリット

相続放棄にはいくつかの重要なメリットがあります。これから解説するメリットを理解することで、相続放棄の選択肢をより明確にすることができるでしょう。
借金や負債を相続せずに済む
相続放棄の最大のメリットの一つは、借金や負債を相続せずに済むことです。相続が発生すると、故人の財産だけでなく、負債もそのまま引き継がれることになります。特に、故人が多額の借金を抱えていた場合、相続人はその負債を背負うことになり、経済的な負担が大きくなります。
相続放棄を選択することで、こうした負債から解放されることができます。手続きは家庭裁判所に申述することで行われ、受理されると相続一切を放棄したことになります。これにより、故人の借金や未払いの請求から逃れることができ、安心して生活を続けることが可能です。
ただし、相続放棄には期限があり、相続開始を知った日から3ヶ月以内に手続きを行う必要があります。この期間を過ぎると、放棄が認められなくなるため、注意が必要です。相続放棄をすることで、経済的なリスクを回避し、将来の生活設計をより安定させることができるのです。
相続トラブルを回避できる
相続放棄を選択することで、相続に伴うトラブルを未然に防ぐことができます。特に、相続人同士の意見が対立しやすい状況では、放棄することで余計な争いを避けることが可能です。
例えば、遺産の分配に関して親族間で意見が食い違うと、感情的な対立が生じることがあります。このような場合、相続放棄をすることで、相続人としての立場を明確にし、トラブルを回避することができます。
また、相続放棄を行うことで、相続人が負うべき責任を回避できるため、精神的な負担も軽減されます。特に、故人の借金や負債が多い場合、相続を受けることで新たな負担を抱えるリスクがありますが、放棄することでそのリスクを回避できます。これにより、相続に関するストレスを軽減し、心の平穏を保つことができるのです。
さらに、相続放棄を選ぶことで、遺産分割協議に参加する必要がなくなるため、手続きの煩雑さから解放されます。相続に関する法律や手続きに不安を感じる方にとって、放棄は一つの有効な選択肢となるでしょう。
遺産分割協議の手間を省ける
相続放棄を選択することで、遺産分割協議に関わる手間を大幅に軽減することができます。通常、相続が発生すると、相続人全員が集まり、どのように遺産を分けるかを話し合う必要があります。
このプロセスは、時に長引き、親族間での意見の対立やトラブルを引き起こすことも少なくありません。しかし、相続放棄を行うことで、自身が相続人としての権利を放棄するため、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。
特に、相続人が多い場合や、遺産の内容が複雑な場合には、協議が難航することが多いです。相続放棄を選ぶことで、こうした煩わしい手続きを避けることができ、精神的な負担を軽減することが可能です。
また、相続放棄をすることで、他の相続人が遺産をスムーズに分割できるため、全体の手続きが迅速に進むことにもつながります。
相続放棄のデメリット

相続放棄にはいくつかのデメリットがあります。これから解説する点を理解した上で、相続放棄を検討することが重要です。
プラスの財産も相続できなくなる
相続放棄を選択する際の大きなデメリットの一つは、プラスの財産も一切相続できなくなるという点です。相続放棄は、相続人が故人の全ての財産、つまりプラスの財産とマイナスの財産の両方を放棄する手続きです。
そのため、たとえ故人が残した資産があったとしても、相続放棄を行うことでそれを受け取る権利を失ってしまいます。例えば、故人が不動産や預貯金などのプラスの財産を持っていた場合でも、相続放棄を選ぶことでそれらの資産を手に入れることはできません。
特に、故人が残した負債が多い場合、相続放棄を選ぶことで負担を軽減できる一方で、プラスの財産を手放すことになるため、慎重な判断が求められます。
また、相続放棄を行った後に、故人の遺産に対する期待や希望があった場合、その喪失感は大きいものとなるでしょう。相続放棄は一度決定すると撤回ができないため、事前にしっかりと考え、必要な情報を集めることが重要です。
後から取り消しすることはできない
相続放棄の手続きは、一度行うと原則として取り消すことができません。これは、相続放棄が法律的に確定した行為であり、家庭裁判所に申述して受理されることで効力が生じるためです。
相続放棄を選択した場合、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も一切受け継がないことになります。このため、相続放棄を決断する際には慎重な判断が求められます。
特に、相続放棄を行った後に、相続財産にプラスの要素があったことが判明しても、取り消しはできません。例えば、相続放棄をした後に、故人が隠していた貴重な資産や、思いがけない遺産が発見されても、放棄した財産を取り戻すことは不可能です。
このため、相続放棄を選択する際には、相続財産の全体像をしっかりと把握し、将来的なリスクを考慮することが重要です。
また、相続放棄をする場合は、期限も厳守しなければなりません。相続開始を知った日から3ヶ月以内に手続きを行わなければ、放棄が認められなくなる可能性があります。
相続放棄をする時の注意点

相続放棄を行う際にはいくつかの重要な注意点があります。相続放棄をいざ行う場合、これから解説する内容に十分注意して行うことが求められます。
生前に相続放棄はできない
相続放棄は、相続人が故人の財産や負債を受け継がないことを選択する手続きですが、重要なポイントとして「生前に相続放棄をすることはできない」という点があります。相続放棄は、被相続人が亡くなった後に行う手続きであり、故人が生きている間はその選択肢は存在しません。
相続放棄を行うためには、まず相続が発生したことを確認する必要があります。つまり、被相続人が亡くなった後に、相続人がその財産や負債をどうするかを決めることができるのです。
生前に相続放棄を希望する場合、実際には相続が発生するまで待たなければならず、そのための準備をしておくことが重要です。
また、相続放棄を行う際には、家庭裁判所に申述を行い、受理されることで初めて効力が生じます。この手続きには期限があり、被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内に行わなければなりません。
相続放棄前に遺産を処分すると相続放棄できない
相続放棄を考える際には、遺産の処分について十分な注意が必要です。相続放棄を行う前に、故人の遺産を処分してしまうと、その後に相続放棄をすることができなくなります。これは、相続放棄の手続きが「相続開始後に発生する権利を放棄する」という性質を持っているためです。
具体的には、相続放棄をするためには、相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述を行う必要があります。
この期間内に遺産を処分してしまうと、相続権を行使したとみなされ、相続放棄が認められなくなります。したがって、相続放棄を検討している場合は、遺産の処分を行わないことが重要です。
また、遺産の中には不動産や貴金属、預貯金などのプラスの財産だけでなく、借金や負債も含まれます。特に、負債が多い場合には、相続放棄を選択することで、経済的なリスクを回避することができます。
しかし、遺産を処分することで相続放棄の権利を失うことになるため、慎重に行動する必要があります。このように、相続放棄を考える際には、遺産の処分について十分に理解し、適切な手続きを踏むことが求められます。
相続放棄すると撤回はできない
相続放棄は、一度手続きを行うと原則として撤回することができません。このため、相続放棄を考える際には慎重な判断が求められます。
相続放棄を行うと、相続人はその相続財産に対する一切の権利を失うため、後から「やっぱり相続したい」と思っても、その意思を実現することはできません。
この撤回不可の特性は、相続放棄の重要なポイントの一つです。特に、相続放棄を選択する理由が一時的な感情や状況に基づいている場合、後悔する可能性が高まります。
例えば、相続財産の中に一見マイナスの財産が多いと感じた場合でも、実際にはプラスの財産が隠れていることもあります。こうした場合、相続放棄を選択することで、将来的に得られるかもしれない利益を自ら放棄してしまうことになります。
したがって、相続放棄を決断する前には、相続財産の全体像をしっかりと把握し、専門家の意見を聞くことが重要です。特に、負債が多い場合でも、相続財産の中に価値のある資産が含まれている可能性があるため、冷静な判断が求められます。
相続放棄しても受け取れるものがある
相続放棄を選択した場合でも、全ての財産を失うわけではありません。具体的には、相続放棄を行った後でも受け取れるものがいくつか存在します。
まず、故人が生前に契約していた生命保険金や、受取人が指定されている預貯金などは、相続放棄の影響を受けません。これらは、相続人としての権利を放棄しても、直接受け取ることができるため、経済的な支援となることがあります。
また、故人が遺言書を残していた場合、その内容に基づいて特定の財産を受け取ることができる場合もあります。遺言書に記載された遺贈は、相続放棄を行ったとしても有効であり、受け取る権利が残ります。
このように、相続放棄を選択した場合でも、全ての財産を失うわけではなく、特定の条件下で受け取れるものがあることを理解しておくことが重要です。
さらに、相続放棄を行った後でも、故人の葬儀費用や遺品整理にかかる費用については、相続人が負担する必要がない場合があります。これらの費用は、相続放棄を行ったとしても、他の相続人や故人の資産から支払われることが一般的です。
まとめ
相続放棄は、相続人がプラスの財産だけでなく、借金や負債も含めて一切の相続を放棄する手続きです。家庭裁判所に申述し、受理されることでその効力が生じます。
相続放棄を選択することで、特にマイナスの財産が多い場合や、親族とのトラブルを避けたい場合には有効な手段となります。また、相続トラブルを回避し、遺産分割協議の手間を省くことができるというメリットもあります。
しかし、相続放棄にはデメリットも存在します。プラスの財産も一緒に放棄してしまうため、慎重な判断が求められます。
また、一度相続放棄を行うと撤回することはできないため、手続きの前に十分な検討が必要です。相続放棄をする際は、事前に注意点を確認し、適切な手続きを行うことが重要です。
本記事では、相続放棄の基本情報から、放棄すべきケース、メリット・デメリット、具体的な申述手順までを詳しく解説しました。相続に関する悩みや不安を抱えている方は、ぜひ参考にしていただき、適切な判断を行ってください。